夕方の学園。
校舎の影が長く伸び、風が少し冷たくなってきた頃。
スズメは、理由もなく立ち止まった。
(……?)
胸の奥が、きゅっと縮む。
嫌な予感というほど強くはない。
でも――何かが、抜け落ちたような感覚。
「……カケル?」
名前を呼んだつもりだった。
ところがその声は、空気に吸い込まれた気がした。
周囲を見渡しても何ら変わりはない。いつも通り。通常。日常だ。
生徒たちの笑い声。
校庭を走る足音。
何一つ、変わっていない。
それなのに――
(今……世界は静かじゃなかったか?)
ほんの一瞬。
時計の針が、音を立てずに進んだような錯覚を感じる。
スズメは、無意識に空を見上げる。
雲の流れが、わずかに不自然だった。
流れているのに、進んでいない。
「……気のせい、だよな」
そう言い聞かせて歩き出そうとした、その時。
胸の奥で、確かな実感が生まれた。
――ああ。
――カケルは、もう同じ場所にいない。
理由は分からない。
説明もできない。
ただ、”戻ってこない何か”が、
今この瞬間に起きたということだけが、分かってしまった。
スズメは、強く拳を握る。
(……やだな)
その違和感が、これから始まる“戦い”の前触れだとは、まだ知らないまま――
