翌日から、俺は徹底してスズランを避けた。
視線を合わせない。
近づかない。
話しかけられても、最低限の返事だけ。
触れなければ、死亡フラグは見えない。
それが唯一の安全策だった。
「冷たくない? 最近」
昼休み、ダリアが机にもたれかかってくる。
距離が近い。意味ありげな笑み。
「本当はさ、助けたいんでしょ?」
無視する。
「えっとね、未来って、当たらないこともあるよ?」
カモミールが首を傾げる。
根拠のない言葉なのに、胸がざわついた。
「アスター先輩、今日も一緒に帰りましょ〜」
モモが腕に絡みつこうとして、寸前で俺が身を引く。
限界だった。
放課後、人気のない教室で、スズランと二人きりになる。
「……避けられてる気がして」
彼女は困ったように笑った。
「私、何かしましたか?」
触れていない。
だから、未来は見えない。
それだけで、少し安心してしまった。
「……違う」
それしか言えなかった。
立ち上がった彼女の袖が、
一瞬だけ、俺の指先に触れた。
見えてしまう。
夜の校舎。
屋上に立つスズラン。
誰もいない。誰も来ない。
彼女は自分で、柵を越える。
理由だけが、はっきりと分かった。
――世界のためなら、私一人でいい。
未来の中で、彼女は俺を見て、微笑った。
「ありがとう。
ちゃんと、優しくしてくれたから」
視界が戻る。
目の前では、何も知らないスズランが首を傾げていた。
「アスターくん?」
言葉が出なかった。
彼女の死亡フラグは、
俺に出会ったこと、そのものだった。
