『クラス最底辺の俺、触れたヒロインの死亡フラグが見えるんだが助けたら世界が壊れそう』 ――助けたいだけなのに、選択肢が残酷すぎる~第38花 予測じゃない、変化~

フラ壊

 最初に気づいたのは、
 文字の色だった。

 いつもなら、ノートを開いた瞬間に現れる赤い文字。
 運命を宣告する、あの無機質な警告。

 ――でも。

「……黒?」

 それは、赤じゃなかった。

 インクが滲んだような、
 鉛筆で強くなぞったみたいな黒。

 しかも――

「……増えてる?」

 俺は、ページをめくった。

 名前が、ない。

 死亡予定時刻も、場所も、原因も書かれていない。
 代わりに、たった一行。

 【観測不能】

 背中に、冷たいものが走る。

「……は?」

 ふざけるな。
 このノートは、必ず未来を示してきた。

 良い未来も、最悪の未来も。
 曖昧だったことなんて、一度もない。

 次のページ。

 また、黒い文字。

 【分岐が固定されました】

 意味が分からない。

 固定?
 分岐が?

「……固定って、何だよ」

 ペンを握る手が、震える。

 その瞬間。

 ノートの端が、
 勝手に、めくれた。

 風なんて吹いていない。
 窓も閉まっている。

 それでも、ページは止まらない。

 ばさ、ばさ、と。

 赤い文字。
 赤い文字。
 ――黒い文字。

 混ざっている。

 まるで、
 世界が書き換え途中のメモを放り込んできたみたいに。

「やめろ……」

 最後に止まったページ。

 そこにあったのは、
 見覚えのない形式だった。

 【対象:アスター】

 息が、詰まる。

 俺の名前。

 今まで、
 このノートに俺自身の項目は存在しなかった。

 なのに。

 【行動制限:残り三回】

「……行動?」

 指でなぞる。

 インクは乾いている。
 でも、書いた覚えはない。

 【三回目の選択以降、修正は行われません】

 頭の奥で、
 何かが音を立てて崩れた。

 未来を「見る」ノートじゃない。

 これはもう、
 選択を管理する装置だ。

「……俺は、対象外じゃなかったのかよ」

 今まで俺は、
 運命を避ける“例外”だと思っていた。

 見る側。
 選ぶ側。

 でも違う。

 最初から――
 俺も観測対象だった。

 ノートの下の方に、
 小さく、追記が現れる。

 赤でも黒でもない。
 薄い、灰色。

 【次の変化は、周囲から始まります】

 その瞬間。

「アスター」

 背後から、声。

 振り返ると、ダリアが立っていた。

「……今、ノート動いたでしょ」

 どうして分かる。

 そう言おうとして、やめた。

 彼女は、俺の顔を見ただけで、すべてを理解したように笑う。

「やっぱり」

 楽しそうでも、嬉しそうでもない。

 ただ、確信の表情。

「予知じゃなくなったんだ」

「……何を知ってる」

「何も」

 ダリアは、軽く肩をすくめる。

「でもさ。
 世界が“待ってくれなくなった顔”してる」

 その言葉が、妙に的確で。

「アスター」

 一歩、近づいてくる。

「これからはね。
 助けるか助けないか、じゃない」

 彼女は、静かに言った。

「誰を“壊すか”を選ぶ段階」

 ノートを閉じても、
 異変は消えなかった。

 もうこれは、
 ページの中の話じゃない。

 世界が、
 俺の選択回数を数え始めている。

 ――残り、三回。

 その数字だけが、
 異様にくっきりと頭に焼き付いていた。

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