教室の空気が、どこかおかしい。
スズランは窓際の席で頬杖をつきながら、斜め前の二人を見ていた。
アスターとダリア。
ただ並んで座っているだけ。
話しているわけでも、触れているわけでもない。
それなのに――
(……近すぎない?)
言葉にするとそれだけのことなのに、なぜか胸の奥がざらつく。
ダリアはいつも通り、机に肘をついて教科書を眺めている。
アスターはいつも通り、無表情でノートを開いている。
なのに。
まるで二人の間にだけ、透明な膜が張られているみたいだった。
周囲の音が遮断されているような、
他の誰も入り込めない“静かな世界”が、そこだけにある。
(……気のせい?)
そう思おうとするたびに、違和感はむしろ大きくなる。
休み時間になっても、二人は必要以上に距離を取らない。
けれど、必要以上に近づくこともない。
まるで、最初から“最適な距離”を知っているみたいに。
それが、気味が悪かった。
スズランは鉛筆を転がしながら、ふとダリアの横顔を見る。
ダリアは、笑っていなかった。
でも、どこか満たされたような、
誰にも見せないはずの安定した表情をしていた。
(……なんなのよ、それ)
胸の奥が、じくりと痛む。
放課後。
教室に残っていたのは、スズランと、アスターと、ダリアだけだった。
夕陽が差し込んで、机の影が長く伸びる。
スズランはわざと、二人の近くを通るようにして鞄を持った。
その瞬間――
ダリアの視線が、ほんの一瞬だけ、スズランに向いた。
その目が、やけに静かだった。
探るような目。
測るような目。
そして――どこか愉しんでいるような目。
スズランは、思わず足を止める。
「……なに?」
ダリアは小さく首を傾げただけで、何も言わなかった。
なのに。
“見透かされた”気がした。
スズランは教室を出たあと、廊下の壁に背を預ける。
(……あれは、普通じゃない)
友達同士の距離感じゃない。
クラスメイト同士の距離感でもない。
じゃあ、何なのか。
それが分からないことが、怖かった。
そのとき、背後から微かな紙の擦れる音がした。
振り返ると、教室の中でアスターが、ノートを閉じているのが見えた。
ダリアが、何も言わずにそれを見ている。
ただ、それだけの光景。
なのに。
スズランの背中を、冷たいものが伝った。
(……あのノート)
あのノートを中心に、何かが静かに狂い始めている。
そんな予感だけが、はっきりと胸に残った。

