「またニーズヘッグファミリーから1人脱退だってさ」
最近はどこに行ってもこの話題ばかりだ。
どうでもいいだろそんなこと。
んなことよりさっさとパンよこせよなー。
「多いですね最近」
仕方なしにそう言った俺の言葉は、会話を大きく広げてしまった。
もうこのパン屋に来るのはよそう。
「モズ! 久しぶりだな」
パン屋から出ると声をかけられた。
しゃもだ。
確か、何個か前に俺が所属してたヨルムンガンドファミリーに居たやつだ。
「俺今エレンスゲファミリーにいるんだけどよー。そこが今度別のギルドに異動するとか言ってるんだよ。めんどくせーしファミリー辞めようかなって思ってるんだよ」
ふーん。辞めればいいのに。
わさわざそんなこと俺に言うなよ。
「そうか……」
何だ?
まさかまたファミリー紹介しろって話しじゃないだろうな?
「しゃもがまだ所属してないファミリーで、このギルドにあるファミリーだとテュポーンファミリーかニーズヘッグファミリーかギータファミリーだな」
「げ! それしかないのかよ……」
かくいう俺も今所蔵しているファミリーはない。
だがしゃもみたいに焦っているわけではない。
なぜなら――
「頼む! ギータファミリー紹介してくれ!」
こういうしゃもみたいなやつがこのギルドには溢れているからだ。
「ついてこいよ」
そう言って俺は、ギータファミリーのアジトにしゃもを連れて行った。
●
「ようリーダー! この前紹介した新人はどうだい?」
ギータファミリーのリーダーに声をかけると、暗い声で返された。
「辞めたよ」
「あれま。そりゃまた何で?」
「さぁな。理由は分からん。で、今日はなんの用だ?」
「あぁ。新入りを連れて来た。メンバーが減ったなら新たに補充したいだろ?」
そう言って俺はしゃもをリーダーに紹介した。
「今は人がどんどんファミリーから抜ける。モズみたいな新入り紹介屋があるとホントにありがたいよ」
リーダーはそう言って俺に報酬を手渡した。
もちろんしゃもからも貰っている。
こんなに簡単な商売。
やめられないね。
●
「ようモズ。またファミリー紹介してくれねーか?」
「またかよしゃも。ギータファミリーはどうしたんだよ」
「あそこのファミリー最悪だぞ! 火のダンジョンの踏破を目指すとか言いやがってよ!」
うわー。そりゃみんな辞めるわ。
「古いファミリーって分かってないよな」
俺が言うとしゃもは頷いた。
「俺たちは頑張りたいわけじゃないのにな」
「ただ、生活ができれば十分なのに魔王討伐だとかダンジョン踏破だとか。仕事量が多すぎるんだよな」
「そういえば、モズはヨルムンガンドファミリーにいた頃、訓練長をやらされてたよな」
「あぁ。あれは酷かった。下が育たないのが俺の責任になるんだから」
俺は猛烈に頷いた。
「責任責任ってほんと嫌な世の中だよな。責任がない気楽なファミリーってないのか?」
「あるわけないだろ? どこのファミリーでも、上を目指せとか言われる」
俺のこの言葉を聞いたしゃもが突然俺に問う。
「なぁモズ。魔王って本当に復活すると思うか?」
「さぁな。古い言い伝えだろ? 俺たちが生きている内には復活しないって見解の方が強いぞ?」
「ならダンジョン踏破とか無意味じゃね?」
「俺は意味ないと思うな。魔王が復活した時のための保険かなんかだろ? 曖昧な未来のために自分の生活を犠牲にしろとか、ファミリーに尽くせギルドに尽くせって上はうるさいからな」
そう答えながら俺は自分がこの世界に来た時のことを思い出していた。
●
俺はただゲームをしていただけだ。
なのに突然目の前が眩しく光って、気がついたらよく分からない場所にいた。
「そなたは異世界でファミリーを抜ける冒険者の数を減らすのじゃ」
目の前に立つ女神が言う。何で俺がって思ってたら女神が話しを続けた。
「そなたは、いくつものゲームを長時間プレイしておろう?」
「あぁ。そりゃゲームは好きだからね」
「で、あれば忍耐力もあり、簡単にファミリーを抜けるようなことはあるまい?」
「いや。ゲームと忍耐力は違うと思うけど?」
「同じじゃ。この世界はいつしか魔王が復活するはずじゃ。その時までに冒険者は一枚岩とならねばならぬ。そして、世界中にあるダンジョンを全て踏破して、魔王が攻めてくるポイントを潰しておくのじゃ」
「え? 俺絶対にやらないからね?」
「お主のために1つだけ特殊能力を授けよう」
話し聞かない女神だなぁ。
「世界システム。世界に干渉できる特殊能力じゃ」
チートスキルじゃん。
その後すぐに女神は、頼んだぞ。とか言いながら消えたんだっけ。
どっかの物語の主人公なら、このチートスキルを使って世界を変えてやるぜとか、魔王が復活する前に全てのダンジョンを踏破してやるぜとかなるんだろうな。
けど俺はそんな風になれない。
異世界に来たから嬉しいとかも思わない。
元の世界に帰りたいとかも思わない。
ただとりあえず生きていければいい。
無理に頑張りたくないし、何で頑張らなきゃいけないのかも分からない。
とりあえず、仕方なく1つのファミリーに所属したんだよな。
それから何個もファミリーを転々として今に至る。
やっぱり考え方は変わらない。
ファミリーのために、ギルドのためになんてのは思えない。
今のこの紹介屋の方が俺には性に合っている。
「なぁモズ」
しゃもの言葉に我に返る。
「俺さ、ギータファミリー辞めたって言っただろ? 辞めるのすげー苦労したんだよ」
「苦労?」
「メンバーと揉めちゃってさ。簡単にファミリーが辞められたらいいのにな」
この時の俺はまだ知りもしない。
これが俺の商売になるなんて……

