結局霊らしきものは見られなかった。
「次は夜に来てみるか?」
落合だ。
「夜ってことは泊まりにならない?」
佐々木が言いながら塩田のことを見る。
きっと塩田のことを心配しているのだろう。
「私は、予め予定が決まっていれば大丈夫だよ? お父さんとお母さんにも最初に言っておくし」
にこりと塩田が微笑む。
「私も平気」
聞かれる前に白石も言う。
全員が俺のことを見る。
「朝倉は平気か」
落合がなんてこないように言って、頭の後ろで手を組む。
「おい! 俺だけ雑だな」
一応突っ込んでおく。
小さい頃も、こんな感じで何でも言い合えるやつが隣に居た気がする。
そんなことをぼんやり考えていると、また頭が痛くなってきた……
「んじゃ今日は帰ろうぜ」
落合の言葉で我に返った。
結局この日はこのまま解散した。
●
「何の収穫もなかったね」
帰りに佐々木が俺に言う。
みんな用事があるとかで、結局俺と佐々木だけが先に電車に乗ることになった。
「収穫がなかったことが得たことなんだって」
「え?」
俺は落合に言われたことをそのまま佐々木に伝えた。
佐々木は俺と同じような反応をした。
「何もない。が分かっただけでも大きな収穫なんだと」
「落合くんが言ってたことでしょ?」
「まぁな」
「落合くんってすごいよね」
佐々木が窓の外を見ながら言う。
「全体を俯瞰して見ているって言うか」
あぁ。言いたいことはなんとなく分かる。
全員をよく見てて、物事を的確に捉えている。
「あんないい人他にいないよ? いい友達持ったね」
にこりと佐々木が笑う。
俺は、また心臓がドキドキすると思ったのに、急激な頭痛に襲われた。
思わず頭を抑えた。
「どうしたの?」
「何でもないよ」
そう言って”いつものように”誤魔化そうとした。
すると、今朝の佐々木の言葉が脳裏に蘇ってきた。
なぁーんか私たちに隠しごとしてるんじゃないのぉー?
「いや。何でもなくない」
聞こえるか聞こえないかのか細い声で言った。
聞こえなくてもいいという気持ちはあった。
なのに――
「え?」
佐々木が聞き返す。
「朝……」
電車の音が大きい。
けど、今はうるさく感じない。
むしろ、もっと大きければいいのにとさえ思う。
「俺に隠し事してるんじゃないかって言ってたよな?」
「え? そんなこと言ったっけ?」
あぁそうか。
佐々木にとってはとても小さなことで、なんてことない些細な言葉だったんだ。
「俺がたまにここにいないとかそんなこと言っただろ?」
「あー。言った言った」
あれかー。
と、思い出したようにこちらを見る。
「それで?」
小首を傾げる。
とても可愛い。
普段ならきっと、俺の心臓は爆発しそうなくらいうるさく鳴っていて、顔も赤くなっていたんだろうな。
けど今は、違う意味で心臓が爆発しそうだ。
俺は、白石にすら言えていない自分の中だけの秘密を今、佐々木に明かそうとしていることを改めて自覚した。
ごくり。と生唾を飲む。
「俺……小さい頃の記憶が曖昧なんだ」
「そりゃーみんなそうじゃない? 私だって小さかった頃、好きな子はいた記憶はあるんだけど、その相手がどんな子だったかんて覚えてないもん」
いや。そうじゃない。
確かに佐々木の言っていることは当たっている。
俺の小さい頃の記憶もそんなもの程度だとは思う。
肝心なのは、その記憶が誰かを傷つけていてその相手が白石もしくは白石の友達である可能性だ。
「もしかしたら白石のことを傷付けてたかもしれないんだ」
「あー。なんか分かるかも。かおるちゃん妙に朝倉のこと気にしてたもんね。あの距離の近さはそういうことね」
納得した。という顔を佐々木が見せる。
「後。多分俺には親友がいて、そのことを思い出すと頭が痛くなるんだよな……特に最近は落合と一緒にいるとその現象が起こるんだ」
「頭痛かー。なんだろうね? 思い出したくない何かがあるのかな?」
「たぶん。わからんけど、白石と親友を傷つけてしまって、それを思い出したくないのかなーって俺は思ってる」
「んー」
佐々木は少し考えるような仕草を見せた。
「少なくとも今見てる感じだと、かおるちゃんが朝倉に怒っている様子はないよ? 変に考えるよりも今を大事にした方がいいんじゃない?」
今を大事に。か……
「過去を思い出さなくてもいいってことか?」
きっと俺は今、嫌な言い方をしている。
返ってきた答えが自分が思っていたのと違っていたから。
「そういうわけじゃないけど。それが嫌な過去ならかおるちゃんも思い出したくないんじゃない?」
いや。白石は多分俺に復讐に近いことをしたいんだ。
俺に贖罪を求めている。
だからユイとかコンとかのあだ名で呼び合ったりしたんだ。
俺に過去を思い出させて謝罪をさせたいんだ。
「もしもさ」
俺がそんなことを考えていたら、佐々木がポツリと言った。
その声がとても柔らかくて、思わず佐々木の方を見る。
「それでも朝倉が辛い過去を思い出さなきゃ前に進めないなら、協力するよ? 辛かったら傍にいたげるし崩れそうなら支えてあげるよ。だからせめてみんなといる時は今をしっかり楽しんで?」
ね? と優しく微笑みながら小首を傾げた。
心臓が強く跳ねた。
「あ。あぁ……ありがとう……」
思わず言葉に詰まる。
まっずぐその目を見返せない。
あぁ――
もうすぐ佐々木が降りる駅か……
「それじゃ。またね」
そう言って俺の天使は電車から降りて行った。

