君だけが俺をユイと呼ぶ~第30話 接近と離隔~

君だけが俺をユイと呼ぶ

「好きな物?」
「あぁ。よく考えたら俺塩田のことよく知らないからさ」
「それって、私の誕生日に関係してるんじゃないの?」
「え? いやー。それは……」
「まったく」
 呆れたような顔をされてしまった。

 この日は、塩田と出かける約束をしていた。
 無論、塩田の誕生日会でどんなことをするか調査するためだ。

「みんなに言われてじゃなくて、朝倉くんの意志で聞きに来て欲しかったな」
「え?」
「何でもない」
 ぷーっと、塩田が両頬を膨らませた。

「塩田って、みんなの前じゃ絶対そういうことしないよな」
「そう? 何でだと思う?」
 上目遣いで聞いてくる。
「みんなの前だとまだ自分を出せないからだろ!」
 自信たっぷりに言うが、なぜか塩田はがっくりとうなだれた。

「全く。そういうところだよね。で、私の好きな物だっけ?」
「あ。あぁ。欲しい物とかやりたいことでもいいんだ」
「じゃあみんなでタイムカプセル埋めたい」
 塩田が両手を合わせて言う。
「タイムカプセル? 卒業でも何でもないのに?」
「うん! 私そういう卒業イベントみたいの1回もやったことないからさ」
「なるほど……タイムカプセルか。いいなそれ!」
「ありがとね!」

 俺は、早速行動を起こそうとした。
「あ。そうだ塩田」
「ん?」
「もっとたくさんの想い出を作ろうな」
「うん!」

 塩田の笑顔はきっと、今までで一番の笑顔だっただろう。

 ●

 塩田と別れてから突如、脳裏にあの草原の光景が浮かんだ。

 これは――
 俺と白石の記憶?
 それかコンと呼ばれる少年と俺との記憶だ……

「そうだ! タイムカプセル埋めようぜ!」
「タイムカプセル?」
 綺麗な顔立ちの子が俺の顔を覗き込む。

「俺らが離れても、大きくなったら絶対にこのタイムカプセルを一緒に掘り起こそうぜ!」
「おー! ユイにしては頭いいこと言うねー」
「何だと―」
「じゃーこれ入れようかなー」
「なにそれ?」
「ふふーん。ユイとの想い出!」
 白石がにっこりと笑う。

 そうだ!

 俺は前にもタイムカプセルを埋めてる……

 ●

「なぁ白石」
「なに?」

 教室で声をかけると、相変わらずの不機嫌声だ。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「だから何?」
「塩田がタイムカプセルを埋めたいって言ってるって話しただろ?」
「うん」
 白石が頷く。

「俺たちも一緒に埋めてるよな?」
「え? いつ? 埋めてないと思うけど?」
 白石の声の調子が柔らかくなった。
 そのままキョトンとしている。

「幼い頃なんだけど、あの草原で」
「草原。思い出したの?」
「いや。全部じゃないんだけど、あそこに俺と白石とあと男の子いたよな?」
「え? いないけど?」
「いやいやいや! コン!って男子!」
 この言葉を聞くと白石の表情はあからさまに不機嫌になった。

「そんな子いない!」

 そのまま席を立とうとする白石を座らせて、俺はもう1つ質問をした。

「じゃあ。しげって男子に心当たりない?」

 白石は、こっちを見もせずに答えた。

「ない」

 ●

「タイムカプセルねぇ」
 放課後に落合が言う。

「俺たちの想い出ってまだ少ないよな?」
「まぁ強いて言うなら、あの神社じゃないか?」
 落合が腕を組んで答える。

「みんなでまた神社に行って、タイムカプセルに入れる物を探すか?」
 俺が提案すると、落合が首を横に振った。
「逆に、あの神社に埋めるのはどうだ?」

「俺……」
 落合の言葉を聞いて思い出が蘇る。
「あの神社で同じことしてる……」

「思い出せなかった過去のことか? あそこにタイムカプセル埋めてるのか?」
 じゃあ。神社に埋めるのは辞めとくか? と落合が聞いてくる。
「いや。俺はもう一度あそこに行かなきゃいけない気がする」
「思い出したくない思い出なんじゃないのか?」
 俺は首を横に振った。
「それは親友の方だ。白石との思い出は忘れちゃいけない思い出なんだ」
 いや――
 親友の方も忘れちゃいけない思い出のはずだ……

「俺はもっと白石と話さなきゃいけないんだ」
 しばらく間があってから、落合が口を開いた。
「ま。それはそうとして、タイムカプセルはどうするんだ?」
「神社に埋めよう。みんなで想い出の品を持ち寄って」
「いいんだな?」
「もちろんだ。神社に俺が昔タイムカプセルを埋めてたことは、誰にも言わないでくれよ?」

 あぁ。と落合は頷てくれた。

 ●

「想い出を探すのを手伝ってくれてありがとね!」
 塩田が笑いながら言う。
「俺よりも落合の方がいい案出してくれると思うがな」
 この日は白石も佐々木も予定があるらしい。
「落合くん? いっつも私のことからかってくるもん」

 驚いた。
 そんなに仲いいとは思えなかったから。

「そんなによく2人で居るのか?」
「んー。よくでもないけどーたまに?」
 小首を傾げる。

 いつの間にそんなに仲が良くなったんだか。

「それにしてもなかなか無いよなー」
 今や部室となっている、美術準備室で思い出になりそうな物を探してみるが、いざ探すと見つからない。

 ふと。塩田と白石が褒められた絵に目が留まった。
 塩田はプールの絵。
 白石はアサガオとプールと男子。

「どうしたの?」
 塩田が近寄って来る。
「何でもない」
 そう答えた。

 俺は何となく、白石への誕生日プレゼントは決まった気がした。
 

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