その日の夜は眠れなかった。
佐々木が俺のことを支えてくれると言ってくれた。
これはもう脈ありだろ!
くっそー。佐々木と連絡が取れたらいいのになー。
新しいスマホか……
そうだ!
<今度、新しいスマホを買うのを手伝ってくれないか?>
<お! いよいよ新しいスマホに変えるのかい?>
<あぁ。急で悪いんだけど明日とか空いてないか?>
<いいよ! 11時に駅前集合ね!>
よし。これで新しくスマホを手に入れられて佐々木と連絡が取れるぞ!
●
ユイからデートのお誘いだ。
嬉しすぎて涙が出そう。
何着て行こうかな♪
あ。今私は少し嫌なことを考えた。
ユイはみんなと連絡先を交換するんだろうな……
このままユイはスマホを変えなければいいのに……
草原。
思い出してくれないよね……
●
「人多いな」
電車に乗って繁華街の家電量販店に来た俺は、思わず愚痴をこぼしていた。
「こんなもんだよー。前いたとこから比べたら今住んでるところも人多くない?」
「そうだったか?」
「そうだよー。子供なんていなかったし、私たち唯一の友達だったじゃーん」
「え?」
その言葉を聞いて俺は思わず白石を見た。
「え? なに?」
俺と白石が唯一の友達だった?
俺は白石の親友を傷つけたんじゃなかったのか?
じゃあ草原にいたのは誰なんだ?
「なぁ」
「スマホお探しですか?」
俺が白石に訊こうとすると、店員さんが声をかけてきた。
俺は白石と店員さんの手助けもあり、新しいスマホを手に入れた。
「これでみんなと連絡取れるようになるね」
チーズバーガーを頬張りながら白石が言う。
ほっぺたにケチャップを付けているところが、コンらしい。
「コンにもう迷惑をかけずに済みそうだな」
ほっぺのケチャップを紙フキンで拭きながら言うと、コンが俺の顔を見る。
「コンって呼ぶんだ?」
ボソリと言う。
そりゃあ。2人の時はとゆーか、コンモードが出てる時はそう呼んじゃうよな?
「ま。迷惑なんて思ってないけどね」
にこっと笑って、同好会全員の連絡先を俺に送ってくれた。
「ね! せっかくだからあれ撮ろうよ!」
あれ。と言ってコンが指さしたのは、女子たちの間で流行っている写真が撮れる機械だ。
何でも盛れるらしい。
男の俺には何のことかさっぱりだったが、言われるがままにその機械で写真を撮った。
「ほれ。半分あげよう。女神のプリを大事に持っていたまえ」
えっへん。と無い胸を張る。
こーゆーところ。昔から変わってないよな。
あ。昔と言えば。
「そういえばさっきの話しなんだけど」
言いかけて昨日の佐々木の言葉を思い出す。
それが嫌な過去ならかおるちゃんも思い出したくないんじゃない?
「ん?」
コンが小首を傾げる。
「あぁ。何でもない。今日はありがとな!」
「またデート誘ってよね」
にひひ。といたずらっぽく笑って白石は帰って行った。
●
その夜、早速俺は全員に連絡を送った。
<やっと時代に追いついたか>
落合だ。
なんだかよく分からん面白い写真を一緒に送ってきている。
<いや。時代が俺に追いついたんだよ>
<アホだなー。ところで夏休みの宿題全部教えてくんね?>
相変わらず落合の冗談は面白い。
あの落合が宿題をやらないわけがない。
<せんせーい。落合くんが宿題全部見せろって言ってきましたー>
<待て! 俺は今から宿題やるんだ。言っておくけど、知らないからな? 俺のあだ名がガリ勉くんになってもいいんだな?>
<頑張れガリ勉くん>
<おー! やっと買ったねぇー>
佐々木だ。
<ようやくみんなと連絡できるよー。ところで今度どっか行かないか?>
<お? いいよ? 計画とかよろしくねー>
<みんなから言われてようやく買ったんだね>
塩田だ。
<だなー>
<この前の埋め合わせっていつしてくれるの?>
埋め合わせ?
あぁ。俺がみんなにたった1人の美術部員だってバラしたやつか。
<俺は基本夏休み中暇だからいつでも>
同好会の集まりがなければダラダラ過ごすだけだしな。
<じゃあ急だけど明日のお昼前に会えない?>
明日か。
急だけど問題ないな。
<いいよ>
<今日はありがと>
白石だ。
ありがとうはこっちのセリフだろ。
<てか何で前のアプリで連絡してきてるの?>
<なんかユイとはこっちの方が慣れてるから>
<確かに自然な感じがするな>
既読はついたが返信は無し。
まぁそんなもんだろ。
さてと。明日の支度でもするか。
スマホが鳴った。
画面を見ると、白石からの返信だった。
もうみんなに連絡しちゃった?
<もちろん>
これで本当に既読がついて返事が来なくなった。
●
「遅くなってごめーん」
塩田は待ち合わせ時間の10分前に来た。
それなのに、遅れてごめんと言うあたり、らしさが出ている。
まぁ30分前に到着した俺も俺だが。
「どうしても人前に出ると自分が出せないよー」
カフェまで歩く道で塩田が言う。
「そうか? 白石とは普通に話してるように見えるが?」
「敬語やめてって言われてるんだけどねー」
「そういえば、俺にだけタメ口じゃん」
「朝倉くんにはもう自分を出せてるからねー」
そう言いながら、ふふふ。と微笑んでいる。
「何で自分が出せなくなっちゃうんだろう」
カフェに入るとさっきの話しの続きだ。
はぁ。と塩田がため息をつく。
「周りにどう思われるかを気にしちゃうからじゃないか?」
「すごいね」
驚いた顔で塩田が俺のことを見る。
「何がだよ」
「だってズバリ言い当てたから」
「あぁ。そりゃあ俺も同じだから分かるんだよ」
そう言うと、塩田が納得したように言う。
「確かに朝倉くんって他人の顔色伺うようなところあるもんねー」
「そんなにか?」
「自分で思っている以上に朝倉くんって顔とかに出てるよ?」
「げ! マジか!」
次からは気を付けよう。
「ありがとね」
突然お礼を言われた。
「何が?」
「たぶん。こういう会を作ってくれなかったら私はずっとあのままだったから」
「こっちこそ。参加してくれてありがとな」
「また話し聞いてね?」
塩田は気持ちが晴れたように帰って行った。
●
「ごめん待った?」
塩田と話した数日後、俺は佐々木とデートをしていた。
まずはカフェだ。
「全然。さっき来たばかり」
本当は30分前に来たけれど。
正直、楽しみすぎてしょうがなかった。
「で。どうしたの?」
甘いチョコレート系の飲み物を飲みながら佐々木が小首を傾げる。
「いや。どうしたってわけではないんだけど」
俺の言葉を聞くと佐々木は大きくため息をついた。
「もぅー。なんか相談があるのかなーって思って友達との予定キャンセルまでしたのにー」
「相談って」
「この前かなり悩んでる感じだったから」
あの電車の中でのことか。
「支えるよ。なんて無責任なこと言っちゃったからさー。ちょっと頑張ってみました」
てへへ。と笑うのが本当に可愛い。
「でもさー。相談とかじゃなかったのかー。勘違いしちゃったよー」
佐々木は俺のことをこんなにも考えてくれてるんだな。
「ちょっと聞いてる?」
まずい! 見とれてて話しを聞いてなかった。
「もぉー。次からは、相談とかがある時に誘ってよね?」
そう言ってほっぺを膨らませて佐々木が立ち上がる。
あれ? もう帰るのかな?
「またね」
またね。ってことは、また誘っていいってことだよな?
カップルだらけのカフェで1人取り残された俺は、佐々木が人ごみの中に消えるまでその姿を目で追ってしまっていた。
