「ゆかりちゃ~ん! どうしたらいいと思うー?」
「待って待ってかおるちゃん。最近ちょっとキャラが違うと思ってたけど、こっちが本当のかおるちゃん?」
「そんなことどうでもいいよー」
「いやいやいやいや! 良くないからね?」
「いいから聞いて! こんなこと今までになかったの!」
「んもー。好きな人の話しでしょ?」
「うー。ユイが他の女子と話してるだけで気になっちゃうよ~」
「そのユイってのが誰なのか知らないけど、そんなに好きならもっとアタックすればいいじゃん」
「できないよー。ゆかりちゃんだってアタックしてないじゃんー」
「う。私の場合は遠距離だし好きだけど憧れに近いから」
「一途だよね。好きになってもう1年以上じゃない?」
「中学の時に好きになった人だからねー」
「夢を追いかけてる人だっけ?」
「たまにしか連絡取ってないし、返事は返って来ないから脈なしなんだけど、それでも諦められないんだよね」
「こんなにも一途なんだから実って貰わないと!」
「お互い頑張ろうね! あ。うるさいのが来たよ」
●
「おはよーさん! 何話してたんだ?」
「おはよう落合。何でもないよ。ほら、あそこにさくいるでしょ? 今日もさくは可愛いねって話してたのよ」
「塩田? 何で白石と佐々木の会話で塩田が? まぁ確かに最近雰囲気変わったけども」
「……へー。やっぱり落合ってちゃんと見てるんだねー」
「なんのこっちゃ」
「さくみが可愛くなったの、ゆかりちゃんの影響な気がするんだよねー」
「何で?」
「なんかさくみ、ゆかりちゃんのことよく見てる気がするから」
「いや。それは2人のことを見てるだろ」
「「え?」」
「何でもねー。朝倉来たから行くわ」
●
学校が憂鬱だと思うのは久しぶりだ。
ずっと夏休みだったら良かったのに。
なんてありきたりな気持ちが溢れてくるな。
「何ダルそうな顔してるんだ?」
落合が話しかけてきた。
休み明けの朝だというのに、元気だな。
「休み明けって憂鬱にならん?」
「俺はむしろ、みんなに会えるから楽しみだな」
「見解の相違だな」
「何を難しい言葉を使ってんだよ」
笑いながら背中を叩かれた。
「いやだってこれから休み明けテストがあったり、宿題回収されたりするんだぜ?」
「んなもんみんなで終わらせただろ?」
確かに落合の言う通り、宿題は同好会のみんなで集まって終わらせたが、テスト勉強をした記憶はない。
「テストなんて、授業聞いてれば問題ないだろ」
「いやそれは特殊なやつじゃねーの?」
「え? 朝倉って授業聞いててもテスト勉強しないと点数取れないタイプ?」
「明らかにバカにしたよな?」
俺の言葉を聞くと落合が爆笑した。
「それで?」
唐突に落合が聞いてくる。
「あぁ。どうやら俺は佐々木のことが気になっているようだ」
「だろうな」
「だろうなって。気づいてたのかよ」
「分かりやすすぎだろ」
笑いながら落合が言うが、それって佐々木にもバレてるってことじゃないのか?
「ま。安心しろよ。俺くらいしか気づいてないから」
落合のこの言葉は、俺の顔色を見ての言葉だろうな。
「今度、デートに誘おうと思ってるんだけど、どう思う?」
「どうって。まぁ誘うのはいいと思うぞ?」
そう言って落合は言葉を区切った。
「ただ。今までの話しを聞く限り普通に誘ってもダメなんじゃないか?」
「だよなー」
俺が頭を抱えると、落合は笑ってその悩みを払拭した。
「相談すりゃいいじゃねーか」
「相談?」
「自分の過去のことで悩んでるんだろ? そのことを素直に相談してみ? それだけでデートになるしうまくいけば、朝倉と佐々木の仲が深まるかもしれないだろ?」
落合は時折、こういう突拍子もない計画を打ち立てる。
ホントにすごい。
こんなにいいやつが彼女すらいないなんて考えられない。
「そういう落合はどうなんだよ」
「何が?」
これだよ。
いつも落合はとぼける。
「好きな人の1人や2人いるだろ?」
その言葉を聞いた落合は一瞬目を伏せた。
「さぁな」
その言葉だけで、もうこれ以上この会話を広げてはいけないのは分かる。
だが……
「これだけ俺のことを分かってるんだ。自分のことだって分かるだろ?」
「分かってるからだよ」
いつもよりも暗い言い方だ。
「落合?」
「何でもねーよ」
頭の後ろで手を組んで自分の席に戻る落合を見て俺は思った。
――落合って、周りの人のことを気遣ってばかりなんじゃないか?
●
久しぶりにあの頭痛がした。
「どうした?」
落合はいつも俺の変化にすぐ気づく。
もう隠しておく訳にはいかないだろう……
「実はな。最近落合といると頭が痛くなるんだ」
「なるほどな。アレルギーだったか」
「真面目な話しだぞ?」
「悪い悪い。んで?」
今度こそ落合は真剣に話しを聞いてくれた。
「あぁ。俺は小学生くらいの頃の記憶がないんだ。っつても丸っきりないわけじゃなくて、一部だけ抜け落ちてるような感じだ」
「あぁ。時折朝倉が遠くを見てる感じになるのはそのせいか」
「佐々木にも言われたけど。たぶん昔を思い出してるからだ」
「それと頭痛と俺にどんな関係があるんだ?」
「わからないんだ」
気まずい沈黙が流れた。
「考えられるのは」
落合が口を開く。
「思い出したくない記憶だな。俺に似た知り合いが居て、例えばそいつにいじめられてたとか」
「逆にいじめてたとか?」
思わず口にしていた。
今まで抑え込んでいた気持ちだ。
「なんだそれ? いじめていたのが思い出したくない記憶?」
落合が困惑する。
もう――
心に嘘はつけなかった。
本当は気づいていた。
思い出そうとすると、頭が痛くなる。そしてそれは思い出したくない記憶ならば……
「俺がその子を殺している。とか……」
空気が凍った。
落合も何て言っていいのか分からないようだ。
「ねぇよそんなこと」
「なんでそんなこと分かるんだよ!」
きっぱりと言われて腹が立った。
「朝倉に人を殺せるとは思えん」
「そんなのわかんねぇだろ?」
「分かるよ」
そう言って落合が俺の目を真っすぐ見てきた。
「親友だからな」
幼い頃。
言われた言葉だ。
俺たちは親友だぜ!
