デビルブレイブ城~第3解放 聖気薬~

デビルブレイブ城

 それからしばらくの間、カズヤたち6人は1次選考で走ったルートを罠つきで走らされた。

 もちろん日々ゴールするまでのタイムを短くする制約付き。

 その後、タイスケと6人の戦闘訓練、更には6人それぞれがペアを組んで1対1や組手の訓練をした。

「ここまでが身体を成熟させるための訓練だ。次は精神を成熟させる訓練いくぞ」

 軽い昼食を取りながらタイスケが言う。

 だいたい身体訓練だけで早朝から昼過ぎまでかかる。

 昼食後に滝に打たれながら精神を集中させる修行。

 一本橋では目を閉じたまま渡り切る訓練をした。

「これ落ちたら普通に死ぬんじゃ?」

 渡っているスケの姿を見ながらサクラが言う。

「どんな状況でも慌てない精神力を身につける訓練だ。慌てずに集中する力が付くし、冷静に状況を見極めることもできるようになるぞ」

 俺もかつてやった訓練だ。とタイスケが呑気に言う。

 足の裏の感覚を極限に高め、目を閉じた状態でもそれを正確に把握することが大切な訓練だ。

 一本橋での訓練が終わるとトラと対話をする訓練だ。

 トラはタイスケが説得をしているために襲ってこない。

 じっくりと対話をすることで、自然と調和するスキルを身につけるのが目的だ。

 最終選考がいつ始まるのかは分からないが、こんな訓練が1週間ほど続いたある日、それは唐突に通達された。

 ●

「明日正午、最終選考に出るに値する者は、中央天幕へ集合すること!」

 伝達係がそう伝えて他のテントへと走り去った。

「いよいよか……」

 ヤシチが拳を握る。

「ねぇ聞いた?」

 ずかずかとサクラが男子テントに入ってくる。後ろからギンも入ってきた。

「ここは男子用のテントだけど?」

 カズヤが一応の意見を述べるが、サクラもギンも無視して中に入って座る。

「さっきの聞いた?」

 再びサクラが口を開く。

 無視されたカズヤは、無視かよ……とブツブツ文句を言っていた。

「明日ですね」

 カクがごくりと唾を飲む。

「不安だべか?」

 その様子を見たスケが心配そうに聞く。

「不安……そうですね。あの薬を飲んだら死ぬかもしれないですからね」

 カクは素直だ。

 一見怖そうで強面だが、とても心優しい。

「精神的にも肉体的にも熟達していない場合に、その命が失われるということでしたね」

 カクの正面でギンも不安そうにしている。

「何言ってるのよ。私たちはあれだけの訓練をやり遂げたのよ?精神的にも肉体的にも熟達してるに決まってるじゃない」

 ギンの隣のサクラは自信たっぷりだ。

「オイラ……ちょっと自信ないや」

 カズヤは6人の中では一番下の成績であることを自覚していた。

 つまり他の人ですら自信がないなら、カズヤはそれ以上に死ぬ確率が高いということになる。

 他のメンバーもカズヤの発言に言葉を失っている。みんなカズヤはもしかしたら死ぬかもしれないと思っているわけだ。

 しかしタイスケは全員が不思議な力を手に入れられると言っていた。

「タイスケさんが自分たちを信じてくれたんだ。自分はそのタイスケさんを信じる」

 ヤシチが言うと、サクラもそうよそうよ。と同調した。

「俺はタイスケさんの期待に応えるだよ!」

 スケが拳をパシッと手のひらで叩く。

「うん。そうだね。あれ程頑張ったんだもんね。大丈夫だよね!」

 カクもギンもカズヤも自信を取り戻し、全員が眠りについた。

 ●

 翌朝早朝、タイスケが6人を集めた。

「昨日連絡が来たな?」

 みんなが集まるなり、タイスケが口を開く。

「俺はお前らなら絶対に特別な力を引き出せると信じてる。特別な力はその人物に由来する力であることがほとんどだ。俺は動物が好きだから動物語って能力を手に入れたんだろうな」

 タイスケがここで一息おく。

 ずず。とお茶を飲んでから再び口を開く。

「今朝は俺が朝食を用意してきた。勝負飯みたいなものだ。もし見事特別な力を手に入れられたらもっかいみんなで飯を食おう!」

 そう言って衣が付いた揚げてある肉と卵がお米の上に乗っているどんぶりを7つ差し出した。1つはタイスケの分だ。

「食え!うまいぞ」

 6人がいただきます。と声を揃えて言った後、食にありついた。

「おいしい!」

 サクラが笑顔で言う。

 他の者もおいしいおいしいと全部平らげた。

 早朝の緊張はほぐれた。

「またこの飯をみんなで食おうな!」

 そうタイスケは言い置いて去っていった。

 正午まではあと数時間ある。

 他の組を見てみると、各々瞑想をしたりして最後まで余念がなかった。

「俺たちも何かした方がいいべ?」

 辺りをキョロキョロ見渡してスケが慌てる。

「瞑想でもする?」

 訓練で一度もしたことない瞑想をサクラが提案する。

「無理でしょ?」

 すかさずカズヤが突っ込むのをサクラが無視する。

「ま、リラックスは大事よね?」

 カズヤは、また無視かよ。とブツブツ文句を言った。

 こうしてカズヤとサクラのおかげで比較的リラックスした状態で6人は正午を迎えた。

 中央の天幕には100人以上の人達が集まっていた。

「こんなに最終選考に出る人がいるんだ……」

 カズヤがごくりと喉をならす。

 集まった全員が一列に並ばされ、少しずつ順番に小さな部屋へと呼ばれて行った。

 カズヤたちはそれほど遅くに天幕へ行ったわけではないのに、かなり後ろの方だった。

「誰も天幕から出てきませんね」

 様子を伺っていたギンが言う。

 既に何十人も天幕に人が入って行ったのに、誰1人として天幕から出てきた人はいない。

「当たり前だが、聖気薬を飲んだ者がその後どんな状態なのか後の者に知らせないためだろうな」

 ヤシチが冷静に分析する。

 列が徐々に短くなっていき、いよいよカズヤたち6人が呼ばれた。

 小部屋にはカズヤたち6人の他に4人の合計10人が小さな机の前に座らされていた。

 机の上には小瓶と砂時計が置かれている。

 聖気薬だ。

「自分の好きなタイミングで飲みたまえ。一気に一息で飲むこと。一滴でも残すと効果は発揮されない。それと、物凄くまずいから心して飲むように。無理強いはしない。飲みたくない者は飲まなくても良し。砂が落ちるまでに飲まなかった者は辞退とみなす。以上」

 教官らしき男性はそれだけ言うと、部屋を出ていった。

 机の上の砂は想像以上に早く落ちて行った。

 カズヤがキョロキョロ辺りを見渡すと、カズヤたち6人組以外の4人はぐびっと聖気薬を一気に飲み干していた。

 それを見ていたサクラが聖気薬を飲み干す。

 次にスケが、ヤシチが、ギンが、カクが飲み干す。

 聖気薬を飲んだ者が全員、気絶したように机の上に突っ伏している。

 意を決したようにカズヤも聖気薬をぐいっと一息に飲む。

 聖気薬は口元に近づけた瞬間、ツンとした刺激臭が鼻をついた。

 更に口に含むと物凄い苦い。苦すぎて舌がピリピリするほどだった。

 むせそうになりながら、吐き出しそうになりながらもカズヤはなんとか聖気薬を飲んだ。

 飲み干した瞬間、他の者同様にカズヤは気を失った。

 ●

「――さい。起きなさい。起きろー!」

 耳元で叫ばれてカズヤは目を覚ます。

 サクラが心配そうな顔をしつつカズヤに声をかけていた。最後は怒鳴っていたが。

 一瞬カズヤは記憶を失っていた。

 なぜ自分が寝ているのか、何で起こされたのか理解できなかった。

 そして唐突に頭が冴える。

「あ、オ、オイラ」

「みんなよく頑張った」

 落ち着いた声でタイスケが6人に言う。

「さぁ、約束のご飯だ。みんな気が付いていないだろうけど、3日も寝込んでいたんだ。腹減ってるだろ?」

 そう言われて自分の空腹状態を全員が改めて自覚する。

 緊張がほぐれたのか、突然空腹感に襲われ、タイスケの手作り料理にありついた。

「そのままでいいから聞いてくれ。これにてお前たちは俺の訓練生ではなくなる。これからは新米というランクで少しずつ功績を立てて、特攻隊、工作隊、支援隊、救護隊、歩兵隊のいずれかに所属することになる。改めて名乗ろう。俺は支援隊所属護衛隊一等のタイスケだ。支援隊の上から4番目の位だな。支援隊に来ることがあればよろしくな」

 タイスケがにこりと笑った。

「さて、俺の最後の仕事だ。みんながどんな力を手に入れたのか把握しておく。力を手に入れた自覚はあるか?」

 6人が目を閉じたり手を握って開いたりして自分の手に入れた能力を把握する。

 サクラの能力は以心伝心。自分の声を遠く離れた場所まで届けることでできる力だ。

 ヤシチの能力は走人。脚力が強化される力だ。

 スケの能力は視憶。見たものを記憶できる力だ。

 カクの能力は力自慢。腕力向上の力。

 ギンの能力は料理人。作った料理に付加価値をプラスできる力だ。

 カズヤの能力は田舎者。触れている土や砂、岩を自在に操ることができる力だ。

「ふむ。能力だけを見たらサクラとスケは支援隊に所属する可能性が高いな。ヤシチとカクとカズヤは特攻隊は歩兵隊だな。ギンは救護隊だろう。ただし、新米を卒業する頃に特別な武器を渡される。その武器と能力の相性で所属する部隊が決まる」

 そう言ってタイスケが1本のロープを取り出した。

「起きろ! リコチーノ」

 タイスケが唱えるとロープが炎を纏った。

「これが特別な武器だ。能力と武器。この2つを駆使して我々人民解放軍はモンスターを討伐する」

 ふっと、ロープの炎をタイスケが消す。

 こうしてカズヤは見事、人民解放軍の新米になった。

 この先大変なことが起こるとはまだ、知る由もない。

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