「待って」
俺がみんなと一緒に喫茶店から出ようとしたらみゆうに止められた。
「ん?」
何か怒られるのだろうか?
「ここでミサキにはっきりと言う」
あぁ、そういうことか。
俺の彼女はみゆうって言うってことか。
確かにこの前みゆうが自分からミサキに話すって言ってたしなるほどなるほど。
「分かった。じゃあ俺はどこかで時間潰してるから話しが終わったら呼んで?」
そう言って喫茶店を後にしようとしたら、みゆうが物凄く変な顔をした。
今まで見たこともないような表情だ。
俺のことを憐れんでいるような、馬鹿にしているような、呆れているような。
「あんたも居るんだよ」
「へ?」
素っ頓狂な声が出てしまった。
「当たり前だろ?」
あ、当たり前っすか?
「居られない理由でも?」
ありませんよ? ちょっと気まずいなとは思うけどありませんよ?
いてあげようじゃないか。
人生で一番の試練かもしれない。
俺はこれから、世に言う修羅場とやらを体験するのだ。
●
俺は頭の中をフル回転させた。
今後のこと。
ミサキのこと。
みゆうのこと。
自分の気持ちのこと。
考えれば考える程、自分の気持ちはよく分からなくなり、言い訳のような言葉が次々に浮かんではどんどんその言葉が上手になってきている。
言い訳が上手になるにつれて、自分の気持ちからはかけ離れているのが分かる。
「ちょっと。聞いてる?」
テーブルの向かい側からみゆうが声をかけてくる。
「え。ごめん。聞いてなかった」
みゆうは大きくため息をついた。
「必死に言い訳考えてたでしょ?」
なんでバレてるんだ?
「今後のために教えといてあげる」
何やら真剣な話しっぽいので、俺は改めて椅子に座り直した。
「勇者はね。分かりやすいんだよ。要は嘘が下手。何を考えているのかすぐにわかるんだよ」
なんだと?
俺には隠し事ができないだと?
そうか。そういう特性なんだな? だから勇者の魅力も隠せないわけか……
「なるほど」
どや顔で言ってやったらなぜか呆れ顔をされた。
「何がなるほど。だよ。分かってる? これからミサキと話すけど嘘はつけないってことだよ?」
ふむふむ。それならば仕方があるまい。
全てを正直に――
「もしも嘘をついたらどうなるの?」
まずい。嘘がつけないということは、今の俺のまとまっていない考えをそのまま言う事になる。
このごちゃごちゃした考えを言っても誰も理解できないだろう。
それにミサキのことは好きだけど、みゆうのことは嫌いではない。
なんてこと言ったら、ただの最低の男になってしまう。
「だから嘘つけないっての」
また呆れ顔だ。
「正直に言えばいいんよ。っつーかさ、うちからしたら勇者の気持ち気づいてるし、その気持ちをそのまま勇者の口から聞きたいだけなんだけど」
なぜかみゆうが悲しい顔をした。
ふと、みゆうが以前泣いた時のことが脳裏をよぎった。
「優しい嘘はいらないから」
さくらの言葉も同時に思い出す。
そうか。ここで俺がまた嘘をつけばみゆうもミサキも傷つけることになるのか。
「分かった。正直に話すよ」
その言葉を聞いたみゆうは、何かを決意したような表情を見せた。
その表情は見たことない表情だった。
最近、みゆうの見たことない表情をよく見るな……
そこで俺は気づいてしまった。
俺はみゆうと付き合っているのに、みゆうのことを何にも知らないんだな……
この時俺は正直に、みゆうのことをもっと知りたいと思った。
「お待たせ」
ミサキがやって来た。
修羅場スタート!
●
「何で呼んだか分かる?」
開口一番にみゆうがつっかかる。
「勇者君のことでしょ?」
「あんたも勇者って呼んでるんだ?」
「みずほも呼んでるよ」
「ブスと不細工が仲良いのは今はどーでもいいよ」
「はぁ? 私よりみずほでしょ?」
「あそこは元々仲良かったしうちらとは次元が違うだろ?」
なんだか2人でよく分からない話しをしてるけど、1つ分かったことがある。
この2人にとってみずほは格下なのだ。
そんでもって俺はみずほレベルだということだ。
「次元が違うならみゆうちゃんは諦めてよ。もっと上の人狙えるでしょ? とゆーか罰ゲームなんじゃないの? 私は本気なんだけど」
ん? 罰ゲームだと? やっぱり俺と付き合うのは罰ゲームで付き合っていたのか。
俺は怒ってみゆうを見ると、みゆうはぷいっと顔を背けた。
ズルくないか? みゆうは俺に嘘をつくなと言う癖に、俺には嘘をつくのかよ!
「確かに最初は罰ゲームだった。何でこんなキモいやつとって思ったよ? でも何でか分かんないけど本気になっちゃったんだよ。しょーがないだろ? 好きになるのに理由なんてないんだから。あんたこそ勇者のことキモいストーカーっていっつも言ってたじゃん」
なぬ! 俺のことをそんな目で見てたのか?
「いやぁ。あんときはダイキと付き合ってたしー。毎日顔合わせてキモいなーって思ってたよ? とゆーか今でも顔はキモいって思うけど、何でか好きになっちゃったんだもん! しょうがないじゃん」
それにしてもこの2人。俺の目の前で何度も俺のことをキモいキモいって言いやがって。
「俺ってそんなにキモいか?」
ボソりと言うと、2人は全く正反対の反応を見せた。
「キモいよ。鏡見たことあんのかよ」
これがみゆうだ。いつも通り。
「キモくないよ? ごめんね。言い方悪かったね。個性的な顔立ちって意味」
これがミサキだ。俺のことを否定しない。
さっきのトリプルデートの時に気づいてしまったが、俺はみゆうといる方が気楽だ。
ミサキといるのは息苦しい。
俺のために色々してくれるのは嬉しい。俺に合わせようとしてくれるのは理解できるが重い。一緒にいて疲れてしまう。
俺の気持ちは――
「とゆーかうち勇者と付き合ってるし」
みゆうが爆弾を落とした。
ミサキが驚きで目をまん丸くしている。
「本当なの?」
俺に訊ねてくる。
俺は隠すことなく正直に頷いた。
「……ふーん。そっかぁー」
ショックそうな顔だ。
そうだよな……俺だってミサキと付き合いたかったさ。
けど今は正直分からない。
「んで、あんたの気持ちはどうなの?」
みゆうが俺に質問を投げかけてくる。
どういう意味だろう? もう話しは終わりじゃないの?
「あんたがうちと付き合ってて楽しいのかどうか。他につき合いたい人がいるのかどうかを聞いてるんだよ」
「ちょっとみゆうちゃん。これ以上私を傷つけないでくれる?」
「うちも傷つく覚悟だから安心しな。とゆーか既に傷つけられてるしね」
ちょっとこの2人が何を言っているのか、意味が分からない。
「えーと? みゆうさんと付き合ってて楽しいけど?」
正直に答える。
「なんて言うか、気を使わなくていいところとかすごく気楽だし、新しい発見がたくさんある」
「へー。勇者君がそんなこと言うんだ?」
ミサキが驚いている。
みゆうも驚いている。
俺も自分で驚いている。
俺がこんなことを言うなんて。
「私のことはどう思ってるの?」
自分のことを指さす。
「正直分からない。前までは好きだった。けど今は分からない」
これが正直な気持ちだ。
「ってことは今まで通りアプローチしてもいいよね?」
「「え?」」
俺とみゆうが同時に声を出す。
「だって恋愛なんて奪ってナンボでしょ?」
にこりと微笑まれる。
「ま。しゃーないか」
みゆうもなぜか納得してるし。
女ってやつは意味の分からない生き物だ。
「んでさぁ。うちのことは好きなの?」
みゆうが頬を赤くしながら聞いてくる。
「好き……って気持ちが今は分からないかも……ただ一緒にいて楽しいとは思う……」
「こりゃダメだね」
ミサキが呆れる。
「こいつはさ、自分が誰と付き合いたいのか分かってないんだよ」
みゆうも呆れている。
どういうわけか、2人が仲良くなっている。
「ま。今は彼女のポジションはみゆうちゃんに譲ってあげるよ」
ミサキはすっと立つと、そのまま店を出て行った。
え? 話しは終わり?
オロオロしながらみゆうを見るとみゆうが不機嫌そうに言う。
「泣いてるよ。追いかけてあげたら?」
……いいのかな?
追いかけろって言われたしいいんだよね?
「それじゃあ……」
俺はそう言い終えてミサキの後を追った。
みゆうは大きくため息をついた後に、その場で泣き崩れたが、勇者はそんなことを知りもしなかった。
