「――殿! ――殿!」
近くなのに遠くのように声がする。
「敵殿!」
はっとして我に返る。
「大丈夫ですか?」
ひょこっと美少年が顔を覗かせる。
「あぁ。大丈夫だ。最近なんだか変なんだ」
首を左右に振りながら答える。
「そのようですね。時たまぼーっとしている時があります」
美少年、カーズローが心配そうに見てくる。
呼ばれた、低谷 敵は軽く微笑みながら答える。
「何も心配ない。ただな、時折、不思議な気持ちになるんだ。どこかで自分が二人になっているような」
「それって、もしかしたら敵の攻撃かもしれませんよ!」
カーズローが驚く。
「どうだかな。今は目の前のことをしっかりと終わらせよう」
二人の目の前には大きな街がある。
その街は砂や土、岩でできており、ところどころ穴が空いていた。
「ここが、地底種ワーム族の住む街の1つですか」
「あぁ。エンドリアは、ドワーフ族が済むルキエタ王国の一部だ。手を出せばドワーフ族が敵に回る」
敵が頷く。
「でも、ここの街を通り道にしないと他の国へは行けません」
「そうだな。でもオレ達は戦争をしに来たわけではない」
そうだろう? と敵がカーズローを見る。
「自分は戦争になっても負けない自信がありますよ」
「ドワーフ族はかなり手ごわい種族だ。血の気が多いのはいいが今はその時ではない」
はっはっはと笑いながら敵は先を歩く。
カーズローはその後を小走りに追う。
「敵殿。ワーム族が交渉に応じるとは思いませんが?」
すんなり街に入れたことに驚きながらカーズローが言う。
「オレが得た情報だとな。ここには人類種がいる」
「え? そんな馬鹿な! ここは地底種の街ですよ?」
「不思議だよな。けどな、いるらしい」
「しかし、そんな情報どこから手に入れてるんですか?」
「かなり腕の立つスパイがいるからな」
「幻想種のガブリーのことですか? そもそもなぜあの者は敵殿の手助けをするのでしょうか?」
敵は、肩をすくめてさぁな。とだけ答えた。
「そもそも人類種は最弱で幻想種は魔法を使わせたら最強と言われている種族ですよ?」
カーズローがまだ納得いかないと話しを続けるが、どうやら話しはここまでのようだ。
「そこまでだ人間」
すぐさまカーズローが腰にかけた剣に手を掛ける。
が、声の主がガブリーだと分かり、その手を剣から離す。
しかし警戒は怠らない。
そこに、カーズローの強さが伺える。
「ガブリー。人類種は?」
すかさず敵が問う。
「キミはせっかちだね。冗談も通じないとは。モテないよ? ワタクシの情報をちゃんと理解したの?」
天使。
そう呼ぶのが相応しい。
ガブリーは幻想種天使族に分類される種族だ。
真っ白でフワフワの羽に頭上に黄色い輪っか。
人類種に羽と輪っかを付けただけの容姿は、正に天使そのものだ。
「そうじゃない」
敵がイライラ言う。
ガブリーはいちいちめんどくさい。
敵が常日頃思っていることがこれだ。
「今すぐ人類種をここに連れてこいという意味だ」
ニヤニヤしながら、ガブリーがはいはい。と返事をする。
くるりと背を向けて、フワフワ浮きながら進み始めた。
まるでついてこいと言わんばかりだ。
カーズローが敵を見る。
判断を仰っているようだ。
「いくぞ」
迷わずに敵が言い、ガブリーの後について行った。
ガブリーに連れてこられた場所は、薄暗い場所だった。
言い換えるなら、襲うなら恰好の場所だ。
周囲は砂でできた建物に囲まれており、まるで砂漠のように常に陽の光に照らされているエンドリアには珍しく、日陰がある場所だ。
周囲の建物には、モグラが掘ったかのような穴が所々に空いているが、これこそがエンドリアの建物と言えば建物である。
何しろエンドリアに住むワーム族は、巨大なミミズのような見た目をしている。
砂や岩を掘って進む習性がある。
つまり、周囲の建物の穴穴は、ワーム族が掘った穴であり、そこからいつワーム族が飛び出してきてもおかしくないということである。
「てめぇ……」
カーズローが腰の剣を抜いてガブリーに切りかかる。
「ワタクシと戦うのですか?」
幻想種と地底種が手を組んでもおかしくない世界情勢だ。
フワリとガブリーが宙に浮く。
「いいでしょう。魔法を使わせたら最強と言われる幻想種の中でも最強と言われる天使族の強さ、とくとご覧に入れましょう」
ガブリーが両の羽を大きく広げると、ガブリーの周囲が青く光り出した。
「やめろ」
静かに敵が2人を制止する。
「オレはお前のことを信用している。無論カーズロー、お前のこともだ」
最初にガブリーを、次にカーズローを見て敵が言う。
「キミはホントに頭がいい」
ふふ。とガブリーが笑う。
「ここは確かにワーム族が掘った居住区だけど、今ワーム族はここにいない。というよりも住めないんだ」
含みのある言い方をする。
まるで、
「どういうことだ?」
と言うカーズローの言葉を待っているかのような。
「理由なんていい。さっさと人類種の元へ案内しろ」
ピシャリと敵が言う。
こういうところが、敵が思うガブリーのめんどくさいところなのだろう。
ガブリーは、フッ。と笑って1つの建物の中へ2人を案内した。
砂でできた建物は少しひんやりとして、外の暑さをどうやってここまで遮断しているのか不思議であった。
「この技術も、地底種のドワーフ族が絡んでいると見て間違いなさそうですね」
敵の疑問を見透かしたかのようにガブリーが言うのを敵は無視した。
「あちらのお方です」
羽で右手を指すと、そこにはヒョロリとした青年が立っていた。
「ワタクシとの対話を拒み続けている方ですが、キミには心を開くのでしょうかね?」
敵が青年の近くへ歩み寄るのをガブリーは楽しそうに見つめている。
「オレの名は低谷 敵。世界中に点在している人類種を集めている。同時に、世界中にバラバラに孤立してしまった人類種の国や街の交流を目的としている」
「人間とは不思議ですね……」
敵が差し出した手を青年が取ったのを見て、ガブリーが心からそう言う。
「ワタクシたちのことは見た目で判断をし、最弱の種族が故に抗えないことも知っていて、それでも尚希望を捨てない……」
カーズローが青年と抱き合い、どんな状況なのか確認をしているのをガブリーはまじまじと見る。
「これも全てキミの功績というのですか……本当にキミは面白い……」
そう言ってガブリーが敵を見るが、敵は青年の話しに夢中だった。
青年の情報を得た敵は、エンドリアがどんな状況にあるのかを正確に知ることができた。
「これよりエンドリアを通り道にする交渉をするぞ。材料はそろった。ガブリーは出てくるなよ?」
敵が釘を刺した。
「はいはい。ホントにキミはつまらない男だね。ワタクシを使って戦争をすれば一発で終わらせられるというのに」
羽をまるで両手でもあるかのように、顔の両側へ持ってきて、やれやれと首を左右に振る。
――それでもキミを見るのをやめられないからホントにキミは面白いね――

