夜の訓練場は、異様なほど静かだった。
風は吹いている。
木も揺れている。
なのに、音が薄い。
(……学園全体が、息を潜めてる)
タカは1人、中央に立っていた。
拳を開いてまた閉じる。
まだ、震えている。
(……俺は、カラスと戦った)
その事実が、今になって重くのしかかる。
管理者。
秩序。
正しさ。
それらを盾にした裏切りを、自分は、拒絶した。
(後悔は……してない)
即答できる。
けれど――
(怖くないわけじゃない)
空を見上げる。
雲の向こうに、“見えてはいけない層”があると、今は分かる。
そして、そこに――
カケルが、立っている。
(……あいつ)
最弱だと思っていた。
守る対象だと思っていた。
なのに今は、世界のほうがあいつを警戒している。
(立場、逆転してるな)
苦笑が漏れる。
でも。
(それでも、だ――)
タカは拳を強く握る。
力があるから守るんじゃない。
正しいから守るわけでもない。
(俺があいつの隣に立つって決めた)
自分の意志。
それだけだ。
訓練場の端で結界の残光が、わずかに揺れた。
シラサギの魔力だ。
(……もうすぐ、合流か)
深層へ行く。
管理者に逆らう。
世界に睨まれる。
普通ならば選ばない道だ。
タカは短く息を吐いた。
「……上等だ」
誰かが行かなきゃならないなら、逃げない奴が行けばいい。
最弱の鳥が、空の裏側へ行くなら――
その隣に立つのは俺だ!
夜空の向こうで、何かが静かに動き始めていた。
