文化祭のシーズンは、バスケの試合があるシーズンでもある。
「この試合で負けたらみんな坊主な」
誰が言ったかは忘れたが、この言葉を忠実に再現して、俺は試合に負けた翌日に坊主にした。
だが、坊主にしたのは俺だけだった。
これがきっかけで、女子からはスポーツ男子だとかイメチェンしたんだとか話しかけられるようになった。
高山も例外ではない。
しかも高山が俺に言う言葉が、他の女子とは少し違う。
「ツルツルじゃん!」
「誰がハゲじゃ!」
このやり取りが毎回行われるのだが、高山はこの時本当に楽しそうに笑うんだ。
そして俺は、このやり取りが2人だけの秘密のように感じていた。
「むっちん文化祭の準備順調なの?」
ある日の夕方、高山が俺に訊いてきた。
最近では、冗談交じりのやり取り以外にも雑談まで交わす。
2人の距離は誰が見ても近くなっていたはずだ。
「まぁうちのクラスはお好み焼きだから、特に大きな準備ないからさ。高山は?」
「うちのクラスはミスコンだからちょっと忙しんだよねー」
ミスコン。
どこにでもある、美男美女を決めるやつだ。
うちの高校はその他にも、ナンバーワンカップルだとかナンバーワン変人だとか色んなナンバーワンを決めるわけだが……
「ナンバーワンカップルが決まらなくてさー」
高山が肩を落とす。
「大角は?」
俺は、学年一のイケメンと学年一の美女カップルの名を挙げた。
「だめ。出場してくれないって」
高山が首を振る。
まぁ、見せものみたいにはなりたくないよな。
そこで俺はふとした疑問が脳裏に過った。
女バスは恋愛禁止だが、そのほとんどに彼氏がいると聞いていた。
「高山は?」
彼氏がいるのか? と訊こうとして怖くて踏み込めなかった。
「ん?」
「誰か心当たりいないのか?」
聞く質問を変えた。
最後まで俺はズルい。
「あー。かおりんとかどうかな? ほら、去年一緒のクラスだった須藤かおり。覚えてない?」
鉛を飲み込んだような感覚が胃の中に落ちる。
忘れるわけがあるだろうか。
俺が傷つけてしまった、人生で初めてドキドキした相手だ……
「それにしてもビックリしたぁー」
高山がニパッと笑う。
俺の心臓がドキンと高鳴る。
「さっきの質問、私には彼氏がいるのかどうか聞いてるのかと思っちゃったよー」
ししし。といつもの冗談を言い合っている時のように笑ってくる。
それだけで聞きやすい雰囲気が生まれた。
ありがたいことだ。きっと高山は俺の気持ちに気づいていた。
「いるんじゃないのか?」
わざと断定的に言う。
別に気にしてませんよ。という雰囲気を醸し出して。
しかし高山は俺よりも上だ。
俺は高山の手のひらの上で転がされてるだけだった。と気づいたのは大人になってからだ。
「んー。彼氏はいないけど好きな人はいるよ?」
チラリと俺の方を見る。
心臓が高鳴る。
これはあり得る。
なのに俺はズルくて弱気だ。
ここで告白をすればきっとうまくいった。
それなのに――
「ふーん。そうなんだ?」
男気がない。と言えばそれまでだが、俺はこれが勘違いだったら嫌だという保身から、高山から告白されるまで”待ち”に出たのだ。
きっとこのことがきっかけで、高山は俺への熱が冷めた。
文化祭がいたって通常通りに進み、ただの消化イベントとなってしまったのは言うまでもない……

