『クラス最底辺の俺、触れたヒロインの死亡フラグが見えるんだが助けたら世界が壊れそう』 ――助けたいだけなのに、選択肢が残酷すぎる~第30花 それ、普通じゃない~

フラ壊

 放課後の中庭は、思ったより人が少なかった。

 部活に向かう生徒たちは校舎の裏へ流れていき、
 残るのは、帰りそびれた数人だけ。

 スズランは、花壇の縁に座っているダリアを見つけた。

 制服のスカートを気にも留めず、
 スマホを眺めながら、暇そうに足を揺らしている。

「……ダリア」

 声をかけると、彼女はゆっくり顔を上げた。

「あ」

 それだけ。

 驚きも、警戒もない。

「なに? スズラン」

 その自然すぎる反応が、逆にスズランの胸をざわつかせた。

 スズランは、ダリアの前に立つ。

「ちょっと、話したい」

「いいよ」

 即答。

 まるで、最初からこの瞬間を待っていたみたいに。

 ダリアは立ち上がり、花壇から降りた。

「ここでいい?」

「……うん」

 夕方の風が、二人の髪を揺らす。

 少し、沈黙。

 先に口を開いたのは、スズランだった。

「最近さ」

 言葉を選ぶ。

「アスターと、やけに距離近くない?」

 ダリアは、きょとんと目を瞬いた。

「そう?」

「そう」

 スズランは、はっきり言った。

「話してなくても、近い。
 見てなくても、分かってる感じがする」

 ダリアは、ふっと笑う。

「あー……それ?」

 軽い。

 あまりにも軽い。

「仲良いだけじゃない?」

「違う」

 スズランは、首を振った。

「“仲良い”じゃない」

 ダリアの笑みが、ほんの少しだけ薄くなる。

「じゃあ、なに?」

 試すような声。

 スズランは、一歩踏み出した。

「共犯、みたい」

 一瞬。

 本当に一瞬だけ、ダリアの目が細くなった。

 でも、すぐに元の表情に戻る。

「物騒だね」

「うん」

 スズランは、誤魔化さなかった。

「自分でも、そう思う」

 胸の奥が、きゅっと締まる。

「でもさ……あのノート」

 ダリアの視線が、ぴたりと止まる。

「アスターがずっと持ってる、それ」

 スズランは、ダリアの反応を見逃さなかった。

 ほんのわずかな沈黙。
 ほんの一拍の間。

 それだけで、確信に変わる。

「……やっぱり、知ってるんだ」

 ダリアは、ゆっくり息を吐いた。

「スズランってさ」

 声のトーンが、少し落ちる。

「鋭いよね。
 優しいのに」

「はぐらかさないで」

 スズランは、珍しく強い口調で言った。

「教えて。
 あれ、何?」

 ダリアは、しばらく黙っていた。

 そして、肩をすくめる。

「言えない」

 即答だった。

「……なんで」

「決まりだから」

「誰の?」

 ダリアは、にっこり笑った。

「世界の」

 その言葉に、スズランの背中が冷たくなる。

「ふざけてる?」

「全然」

 ダリアは、真顔だった。

「むしろ、すごく真剣」

 スズランは、拳を握る。

「ねえ、ダリア」

 声が、少し震える。

「アスター、苦しそうだよ」

 その言葉に、ダリアは首を傾げた。

「そう?」

「そうだよ」

「でもさ」

 ダリアは、楽しそうに言う。

「彼、選んでるよ。
 ちゃんと、自分で」

 その言い方が、どうしても許せなかった。

「……選ばされてるんじゃないの?」

 スズランは、踏み込む。

「ダリア、あんたが」

 一瞬、風が止んだ気がした。

 ダリアの笑顔が、完全に消える。

「それ以上言うと」

 声は、静かだった。

「戻れなくなるよ」

 スズランは、怯まなかった。

「もう、戻るつもりない」

 はっきりとした答え。

「このまま見てる方が、無理」

 ダリアは、じっとスズランを見る。

 その視線は、観察者のものだった。

 そして――

 ゆっくりと、口角を上げる。

「いいね」

「……なにが」

「その顔」

 ダリアは、楽しそうに言った。

「やっと、“当事者”になった」

 スズランの胸が、どくりと鳴る。

「忠告しとくね」

 ダリアは、近づいてくる。

「アスターを守りたいなら」

 耳元で、囁く。

「優しさだけじゃ、足りない」

 そう言って、彼女は離れた。

「それでも踏み込むなら」

 振り返りざまに、ひとこと。

「壊れる覚悟、しといて」

 ダリアは、そのまま歩き去った。

 残されたスズランは、しばらく動けなかった。

(……やっぱり)

 これは、ただの違和感じゃない。

 誰かが、誰かを選び、
 誰かが、切り捨てられる世界。

 そして――

(……私も、もう外じゃない)

 スズランは、夕焼けの校舎を見上げた。

 踏み込んだ以上、
 もう“知らなかった”とは言えない。

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