『クラス最底辺の俺、触れたヒロインの死亡フラグが見えるんだが助けたら世界が壊れそう』 ――助けたいだけなのに、選択肢が残酷すぎる~第33花 最初の例~

フラ壊

 場所は、旧校舎の資料室だった。

 普段は使われていないせいで、
 埃っぽくて、空気が少し重い。

「ここ、好きなんだよね」

 ダリアはそう言いながら、窓際の机に腰をかけた。

「人来ないし、声も響かない」

 スズランは、ドアの近くに立ったままだった。

「……わざわざここに?」

「うん」

 ダリアは、鞄から一冊のノートを取り出す。

 あの、見覚えのあるノート。

 アスターが肌身離さず持っているものと、同じだ。

 スズランの喉が、ひくりと鳴る。

「触らないで」

 ダリアは、先に言った。

「見るだけ」

 ノートは、机の上に置かれる。

 ゆっくり、開かれる。

 スズランは、思わず一歩後ずさった。

 そこには、びっしりと文字が書かれている……わけではなかった。

 ページの大半は、空白。

 いくつかの日付。
 いくつかの短いメモ。

 そして――

 名前。

「……少ない」

 スズランが呟く。

「でしょ?」

 ダリアは、平然と答えた。

「むやみに使うと、すぐ壊れるから」

「壊れる……?」

「世界が」

 あまりにも軽い言い方だった。

 ダリアは、あるページを指で示す。

「これが、最初の具体例」

 スズランは、覗き込む。

 そこに書かれていたのは、
 クラスメイトでも、友達でもない名前。

 他学年の、生徒。

 それだけ。

「……この人、どうなったの」

 ダリアは、少しだけ間を置いてから答えた。

「小さな事故が起きた」

 それ以上、詳しくは言わない。

「命に関わるほどじゃない。
 でも、進路が変わるくらいには」

 スズランの背中が、冷える。

「それって……」

「“助けた結果”だよ」

 ダリアは、にっこり笑った。

「本来なら、もっと大きなことが起きてた」

「……それを、防いだ?」

「そう」

 ダリアは、指でノートを軽く叩く。

「でもね」

 声が、少しだけ低くなる。

「完全に“なかったこと”にはならない」

 スズランは、息を呑んだ。

「世界はさ、帳尻合わせが好きだから」

 ダリアは、楽しそうに言う。

「助けた分、どこかで歪む」

「……それって」

 スズランは、震える声で言った。

「本当に、助けたって言えるの?」

 ダリアは、首を傾げる。

「どうだろ」

 考えるふり。

「少なくとも、死んではいない」

「でも……」

「人生は変わった」

 ダリアは、あっさり言う。

「それが、最初の例」

 スズランは、ノートから目を離せなくなっていた。

「……アスターは」

 声が、かすれる。

「これを、何回も?」

「うん」

 即答。

「しかも、もっと厳しいやつを」

 スズランは、思わず後ずさる。

「それ、重すぎる……」

「でしょ?」

 ダリアは、満足そうだった。

「だから、彼は一人で抱え込んでる」

 ノートを、ゆっくり閉じる。

「ねえ、スズラン」

 ダリアは、真剣な目で言った。

「ここまで見て、どう思う?」

 スズランは、すぐに答えられなかった。

 怖い。
 重い。
 間違ってる気がする。

 でも――

「……それでも」

 ようやく口を開く。

「見捨てるよりは、マシ」

 その答えを聞いて、
 ダリアの目が、わずかに輝いた。

「うん」

 楽しそうに、頷く。

「その考え方、好き」

 スズランは、その言葉に嫌な予感を覚えた。

「じゃあ」

 ダリアは、鞄にノートをしまう。

「次は、アスターが今まさに抱えてる“選択”を教えよっか」

 スズランの心臓が、強く跳ねる。

「それを知ったら」

 ダリアは、微笑む。

「もう完全に、同じ側だよ」

 資料室を出たとき、
 夕方の空は、もう暗くなり始めていた。

 スズランは、気づいてしまった。

 これは“説明”じゃない。
 参加の許可だ。

 そして――

(……戻れない)

 もう、戻れないところまで来ている。

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