城は、同じ場所には建てられなかった。
瓦礫はすべて撤去され、
あの場所は「危険思想発生地点」として、立ち入りを禁じられた。
だから城は、少し離れた丘の上に建てられた。
名前も変えられた。
魔王城ではない。
勇者とも、魔族とも、関係のない名前。
誰が決めたのかは、誰も知らない。
そこに集まったのは、
帰る場所を失った人間と、居場所を失った魔族、
そして――あの城で守られた子どもたちだった。
大人たちは、魔王の名を口にしない。
口にすると、何かを疑ってしまいそうになるからだ。
子どもたちも、詳しいことは知らない。
処刑の理由も、世界の思想も、理解できない。
ただ、一つだけ覚えている。
夜、怖くて眠れなかったとき。
争いが起きたとき。
誰かが泣いていたとき。
必ず、前に立った影があった。
角があって、
怖い顔をしていて、
でも、誰よりも先に殴られていた背中。
「大丈夫だ」
そう言っていた声。
城の完成の日。
誰かが、玄関に小さな石像を置いた。
王でも、勇者でもない。
剣も、玉座も持っていない。
ただ、子どもを背にかばう、
名もない魔族の姿。
誰も、それを撤去しなかった。
世界は、相変わらずだ。
正しさは疑われず、
勇者はまた選別され、
魔王は再び生まれるかもしれない。
それでも。
あの城で生き延びた者たちは知っている。
世界を守らなかった魔王が、
確かに、誰かを守ったことを。
そして、城は今日も建っている。
魔王のいない城が。
それでも――魔王の意志だけを残した城が。

