『クラス最底辺の俺、触れたヒロインの死亡フラグが見えるんだが助けたら世界が壊れそう』 ――助けたいだけなのに、選択肢が残酷すぎる~第32花 じゃあ、教えてあげよっか?~

フラ壊

 校舎裏は、夕方になると静かになる。

 部活の声は遠く、
 木々の影が地面に長く伸びている。

 スズランは、ベンチに座っていた。

 帰るつもりだった。
 でも、足が動かなかった。

 アスターの言葉が、まだ耳に残っている。

――関わるな。
――来るな。

 分かっている。
 守ろうとした言葉だということも。

 それでも、胸の奥が冷えていく。

「……落ち込んでる?」

 その声に、スズランは顔を上げた。

 ダリアだった。

 いつの間にか、すぐそこに立っている。
 影の落ち方が、やけに近い。

「……見てた?」

「うん」

 あっさりした返事。

「全部じゃないけど、だいたい」

 ダリアは、スズランの隣に腰を下ろす。

 距離は、近すぎず、遠すぎず。
 でも、逃げられない位置。

「きついよね」

 軽い口調。

「守るために突き放されるやつ」

 スズランは、何も言わなかった。

 否定もしない。
 肯定もしない。

 ダリアは、スズランの沈黙を楽しむように、空を見上げる。

「でさ」

 何気ない調子で続ける。

「まだ、諦めてないでしょ?」

 スズランの肩が、わずかに揺れた。

「……なにを」

「全部」

 ダリアは、笑う。

「アスターのことも。
 あのノートのことも」

 スズランは、唇を噛んだ。

「……あんたは、知ってるんでしょ」

「うん」

 即答。

 迷いがない。

「最初から」

 その言葉に、胸がざわつく。

「だったら……」

 スズランは、意を決して言った。

「教えてよ」

 ダリアは、少しだけ驚いた顔をした。

 でも、それは演技だった。

「へえ」

 目が、楽しそうに細くなる。

「アスターには聞けなかったのに?」

「……聞けなかった」

 正直な答え。

「拒まれたから」

「そっか」

 ダリアは、頷く。

「じゃあさ」

 少しだけ、声を落とす。

「私が教えてあげよっか?」

 スズランの心臓が、跳ねた。

「……条件、ある?」

「もちろん」

 ダリアは、微笑む。

 それは、優しい顔だった。
 でも、どこにも温度がない。

「アスターには、内緒」

 スズランは、目を見開く。

「それ……」

「彼、止めるでしょ」

 ダリアは、肩をすくめた。

「だって、君を守りたいんだもん」

 その言い方が、刺さる。

「でもね」

 ダリアは、視線をスズランに戻す。

「守られるだけで、納得できる?」

 スズランは、答えられなかった。

「選択肢、あるよ」

 ダリアは、指を一本立てる。

「何も知らずに、外にいる」

 二本目。

「全部知って、当事者になる」

 三本目は、立てなかった。

「中途半端は、ない」

 沈黙。

 風が、木の葉を揺らす。

「……知ったら」

 スズランは、ゆっくり言った。

「戻れない?」

「戻れない」

 迷いのない返事。

「絶対?」

「絶対」

 ダリアは、にっこり笑った。

「だって、知るってそういうことだもん」

 スズランは、膝の上で手を握る。

 怖い。
 でも――

(……置いていかれる方が、もっと怖い)

「……少しだけ」

 声が、かすれる。

「少しだけでも、教えて」

 ダリアは、その言葉を待っていた。

「いいよ」

 立ち上がる。

「じゃあ、まず一個だけ」

 スズランの前に立ち、見下ろす。

「あのノートね」

 一拍。

「未来を書き換えるためのもの」

 スズランの息が、止まる。

「しかも」

 ダリアは、楽しそうに続けた。

「救うために使うと、
 だいたい世界が歪む」

「……なに、それ」

「残酷でしょ」

 ダリアは、くすっと笑う。

「だからさ」

 身を屈めて、耳元で囁く。

「アスターは、必死なんだよ」

 スズランの背中を、冷たいものが走った。

「ねえ」

 ダリアは、最後に言う。

「知りたいなら、続きを教える」

 一歩、離れる。

「でもその代わり」

 視線が、鋭くなる。

「君も、選ぶ側になる」

 スズランは、夕焼けの空を見上げた。

 もう、戻れない場所に
 一歩踏み出そうとしている気がした。

(……それでも)

 彼を一人にするよりは、いい。

「……分かった」

 そう答えた瞬間。

 ダリアは、満足そうに微笑んだ。

「歓迎するよ」

 その笑顔が、
 いちばん危険だと気づくのは、
 もう少し先の話だった。

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