君だけが俺をユイと呼ぶ~第10話 違和感~

君だけが俺をユイと呼ぶ

 違う――

 なんか違う――

 俺は確かにどんな形でもいいから白石と一緒に居たいのだろう。

 だが、一緒にいればいる程に、違和感を感じずにはいられなかった。

「ねぇ朝倉くん。この学校の七不思議はほぼ解決したようなものだし、次は記憶喪失について調べてみないかい?」

「記憶喪失?」

「そそ! 人体の不思議の1つだと思うんだよねー。どういった理由で記憶を失うのか。キミの意見を聞こうじゃないか」

 にこやかに問われるが、そんな学問的なこと聞かれても分からない。

「思い出したくないことがあるとか?」

「ほぉー。いい線いってるねー。辛い思い出ね」

 白石のこの言葉を聞いた時、胸が痛んだ。

「この件はもっと煮詰めていこうではないか!」

 ふふん。と鼻歌まじりに白石が先を歩く。

 ふと。白石がいつもよりも楽しそうに見えた。

「そういえばさ」

 ふとした疑問だった。
 特に理由があったわけではない。

「最初の頃に俺のことをズルいって言ったのあれ何で?」

 俺は気づかなかった。
 この質問が自分に対する地雷であることに――

 ●

「ユイのバカ……」

 何度目の言葉だろう。
 分かってる。

 本当にバカなのは自分だって。

 ユイにとっては、小さな頃の記憶は煩わしいもの。

 私だけが大切に想ってる宝物で……

 そもそも小さい頃の記憶なんて、ほとんどが薄れていくもんなんだから。

 私の独りよがりでユイを苦しめるのはもうやめよう。

 私が勝手に思い出して欲しい。って願ってただけなんだから……

 重苦しい空気を入れ替えるように窓を開けるとそこには――

「ユイ……ホントにバカなんだから……ズルいよバカ……」

 涙が溢れてくる。

 あぁ――

 やっぱり私はユイのことが好きなんだ……

 意気揚々と歩くユイの背中をいつまでも見つめていた。

 ●

「キミがズルいのはずっとでしょ?」

 何を今さら。と言いたげに白石が言う。

 瞬間、胸が締め付けられる。

 忘れていた。
 白石は俺の過去を知っている。

 そして俺は思い出せない過去がある……

「そう。か……」

 歯切れの悪い返事をした。

 白石もそれに気がついたのだろう。
 目を伏せる。

「幸せな想い出も忘れちゃうことってあるよね」

 声が暗い。
 教室での白石でも、コンでも、不思議を探している時の白石でもなかった。

 こんな表情見たことな――

「白石!」

 思わず肩を掴んでいた。

「え? 何??」

 心臓がうるさい。
 俺はあの表情を知っている。見たことがある。

 草原で白石と――いやコンと――
 泣くコンを俺は慰めた。

 そして約束した――

「お前を絶対に泣かせない」

「なにそれ」

 クスリと笑われたが、俺は絶対に白石にこう約束したはずだ。

「じゃあ絶対に泣かせないように約束守って貰おうかな?」

「へ?」

「今言ったでしょ?」
「私のこと泣かせないって」

 言った。確かにポロっと零れた言葉だが言った。

「それに私、自分で言うのもなんだけど、お前って呼ばれるの初めてだよ?」

 逆光が、白石を更に輝かせて美しく見せる。

 でもな白石。
 実は初めてじゃないんだよ。
 幼い頃に俺は白石のことを、お前って呼んでるんだ――

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