翌朝、俺は白石との約束の意味を考えていた。
過去にも同じ約束をしたことは間違いない。
が、どんな意味で自分が言ったのかは思い出せない。
ただ、白石が泣いていたことだけは映像として覚えている。
その光景だけが記憶にある。
そういえば、草原で泣いている白石もきれいだったな。
白石って幼い頃からきれいな顔立ちをしていたのか。
などと考えていると、早速約束を守る場面に出くわした。
いつものように、クラスメイトに囲まれている白石。
愛想笑いをしているが、あれは絶対に楽しくない。
前は無理していないとか言っていたが、あれは絶対に無理をしている。
「白石」
意を決して俺はクラスメイトの目の前で、白石に声をかける。
「なに?」
白石が冷たく言い放つ。
全員が俺と白石を見る。
「ちょっといいか?」
「いいけど……」
それだけ言って白石は席を立った。
クラス中がざわめきだすが、とりあえず白石を救出することには成功した。
「ああいうのはよくないわ」
廊下に出ると唐突に言われた。
「ああいうの?」
「みんなの前で私と2人きりになろうとすることよ」
白石は、自分も同じようなことをしていることを知っているのだろうか?
「最近私たちがよく一緒に居ることで、あらぬ噂が立てられているわ」
なるほどね。
確かに白石からしたらいい迷惑だ。
「それで?」
「ん?」
俺は白石のそれで? の意味が分からず聞き返した。
「何の用事なの?」
「え? いや。助けたつもりだけど?」
「助ける?」
キョトンとして白石が俺を見る。
「だって。クラスの連中に囲まれて困っていただろ?」
「……それだけ?」
「それだけって。泣かせないって約束したからな。嫌なことから守るのが近道だろ?」
俺の言葉を聞いた途端、白石は吹き出した。
「あー。おかしい」
ひとしきり笑い終わった後、目の端の涙を拭きながら白石が言う。
「そんなことまでしてくれなくても平気だよ? でもありがとね」
「相変わらず優しいね」
ボソリと言った白石の言葉を俺ははっきりと聞いた。
「え? それって」
「でももう次からは、みんなの前で2人きりになるようなことはしないでね?」
俺の質問を遮るように白石が微笑む。
「本当に助けて欲しい時はちゃんと言うから」
俺は白石を引き止めようと手を伸ばそうとした。
しかしその手が動かず。
白石を呼び止めようとして、言葉が出てこなかった。
白石が1歩遠くへ行った気がした。
●
教室へ戻った俺は、机に突っ伏した。
いつぞやの男子が、慰めるように肩に手を置いてくる。
この男子からしたら、俺はかなりのチャレンジャーなのかもしれないな。
それにしても俺と白石の距離は、1歩近づいたと思ったらまた遠くなった。
今まではずっと白石が俺を追う側だった。
今では俺がずっと白石を追いかけている。
近づくには過去に踏み込むしかないというのに……
「俺は弱虫だな……」
「んなわけないだろ?」
俺の独り言を、いつも慰めてくれる男子が聞いていた。
「何回もアタックしてる朝倉は強いだろ」
「へ?」
思わず顔を上げると、机の周りにはクラスの男子が集まっていた。
「何回フラれても告白してる朝倉ってすげーよな」
「前から距離近いとは思ってたけど、それでも無理なんだな」
「そのメンタルどっからきてんの?」
なんだなんだ?
「クラス一。いやもしかしたら学校一の美女だからなー。白石は」
慰めてくれる男子が誇らしげに言う。
「何でも協力するぞ」
驚きで言葉が出てこないが、そうか。
俺は知らぬ間に有名になってしまっていたのか……
静かに高校生活を送りたかったんだけどな。
「とりあえず1人にしてくんない?」
この言葉をどう勘違いされたのか、
「よしきた! 暖かく見守っててやるぜ!」
となってしまった。
クラスはなぜか、俺と白石が付き合うまで見守る形となったようだ。
「とりあえずこれ使ってくれ」
映画のチケットを手に入れてしまった。
●
誘うしかない。
映画のチケットは2枚。
内容は恋愛物。
男2人で行くわけにも行かない。
今まで散々白石のことは誘ってきた。
今まで通り。
そう。簡単なはずだ。
なのに。いざ誘うとなるとこれが難易度が高い。
周囲に見られているというプレッシャーもあるのだろうが、
変に意識してしまうからだろうな。
「白石。ちょっといいか?」
女子とおしゃべり中の白石に声をかける。
どうでもいいが、なんで女子は俺が白石を呼び出す度にクスクス笑うんだ?
「また?」
白石も不機嫌そうだ。
これは、早く終わらせた方が良さそうだな。
俺は白石が椅子から立とうとするのを制止した。
「次の土曜日なんだけど」
喉がカラカラだ。
「空いてる?」
「まぁ。予定はないけど」
相変わらずの白石モードだ。
「映画でも行かないか?」
女子の数人が、キャッ。とか悲鳴をあげてる。
「別にいいけど」
クラス中が爆発した。
男子は、うぉー! とか叫び、女子はキャーキャー言ってる。
「次からは、みんなの前でのお誘いはちょっと恥ずかしすぎるかな」
ボソリと俺にだけ聞こえる声で、不思議探しモードの白石が言った。
確かにクラスのみんなの目の前で、デートに誘った形になってしまった……
