君だけが俺をユイと呼ぶ~第11話 誘い~

君だけが俺をユイと呼ぶ

 翌朝、俺は白石との約束の意味を考えていた。

 過去にも同じ約束をしたことは間違いない。
 が、どんな意味で自分が言ったのかは思い出せない。

 ただ、白石が泣いていたことだけは映像として覚えている。
 その光景だけが記憶にある。

 そういえば、草原で泣いている白石もきれいだったな。
 白石って幼い頃からきれいな顔立ちをしていたのか。

 などと考えていると、早速約束を守る場面に出くわした。

 いつものように、クラスメイトに囲まれている白石。
 愛想笑いをしているが、あれは絶対に楽しくない。

 前は無理していないとか言っていたが、あれは絶対に無理をしている。

「白石」

 意を決して俺はクラスメイトの目の前で、白石に声をかける。

「なに?」

 白石が冷たく言い放つ。
 全員が俺と白石を見る。

「ちょっといいか?」

「いいけど……」

 それだけ言って白石は席を立った。

 クラス中がざわめきだすが、とりあえず白石を救出することには成功した。

「ああいうのはよくないわ」

 廊下に出ると唐突に言われた。

「ああいうの?」

「みんなの前で私と2人きりになろうとすることよ」

 白石は、自分も同じようなことをしていることを知っているのだろうか?

「最近私たちがよく一緒に居ることで、あらぬ噂が立てられているわ」

 なるほどね。
 確かに白石からしたらいい迷惑だ。

「それで?」

「ん?」

 俺は白石のそれで? の意味が分からず聞き返した。

「何の用事なの?」

「え? いや。助けたつもりだけど?」

「助ける?」

 キョトンとして白石が俺を見る。

「だって。クラスの連中に囲まれて困っていただろ?」

「……それだけ?」

「それだけって。泣かせないって約束したからな。嫌なことから守るのが近道だろ?」

 俺の言葉を聞いた途端、白石は吹き出した。

「あー。おかしい」

 ひとしきり笑い終わった後、目の端の涙を拭きながら白石が言う。

「そんなことまでしてくれなくても平気だよ? でもありがとね」

「相変わらず優しいね」

 ボソリと言った白石の言葉を俺ははっきりと聞いた。

「え? それって」

「でももう次からは、みんなの前で2人きりになるようなことはしないでね?」

 俺の質問を遮るように白石が微笑む。

「本当に助けて欲しい時はちゃんと言うから」

 俺は白石を引き止めようと手を伸ばそうとした。

 しかしその手が動かず。
 白石を呼び止めようとして、言葉が出てこなかった。

 白石が1歩遠くへ行った気がした。

 ●

 教室へ戻った俺は、机に突っ伏した。

 いつぞやの男子が、慰めるように肩に手を置いてくる。

 この男子からしたら、俺はかなりのチャレンジャーなのかもしれないな。

 それにしても俺と白石の距離は、1歩近づいたと思ったらまた遠くなった。

 今まではずっと白石が俺を追う側だった。

 今では俺がずっと白石を追いかけている。

 近づくには過去に踏み込むしかないというのに……

「俺は弱虫だな……」

「んなわけないだろ?」

 俺の独り言を、いつも慰めてくれる男子が聞いていた。

「何回もアタックしてる朝倉は強いだろ」

「へ?」

 思わず顔を上げると、机の周りにはクラスの男子が集まっていた。

「何回フラれても告白してる朝倉ってすげーよな」

「前から距離近いとは思ってたけど、それでも無理なんだな」

「そのメンタルどっからきてんの?」

 なんだなんだ?

「クラス一。いやもしかしたら学校一の美女だからなー。白石は」
 慰めてくれる男子が誇らしげに言う。

「何でも協力するぞ」

 驚きで言葉が出てこないが、そうか。
 俺は知らぬ間に有名になってしまっていたのか……

 静かに高校生活を送りたかったんだけどな。

「とりあえず1人にしてくんない?」

 この言葉をどう勘違いされたのか、

「よしきた! 暖かく見守っててやるぜ!」

 となってしまった。
 クラスはなぜか、俺と白石が付き合うまで見守る形となったようだ。

「とりあえずこれ使ってくれ」

 映画のチケットを手に入れてしまった。

 ●

 誘うしかない。

 映画のチケットは2枚。
 内容は恋愛物。

 男2人で行くわけにも行かない。

 今まで散々白石のことは誘ってきた。
 今まで通り。
 そう。簡単なはずだ。

 なのに。いざ誘うとなるとこれが難易度が高い。

 周囲に見られているというプレッシャーもあるのだろうが、
 変に意識してしまうからだろうな。

「白石。ちょっといいか?」

 女子とおしゃべり中の白石に声をかける。
 どうでもいいが、なんで女子は俺が白石を呼び出す度にクスクス笑うんだ?

「また?」

 白石も不機嫌そうだ。

 これは、早く終わらせた方が良さそうだな。

 俺は白石が椅子から立とうとするのを制止した。

「次の土曜日なんだけど」
 喉がカラカラだ。
「空いてる?」

「まぁ。予定はないけど」

 相変わらずの白石モードだ。

「映画でも行かないか?」

 女子の数人が、キャッ。とか悲鳴をあげてる。

「別にいいけど」

 クラス中が爆発した。

 男子は、うぉー! とか叫び、女子はキャーキャー言ってる。

「次からは、みんなの前でのお誘いはちょっと恥ずかしすぎるかな」

 ボソリと俺にだけ聞こえる声で、不思議探しモードの白石が言った。

 確かにクラスのみんなの目の前で、デートに誘った形になってしまった……

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