その後どうやって最寄り駅まで帰ったのかを覚えていない。
ただ電車で揺られている間、ずっと頭の中が真っ白になっていた。
何が正解だったんだ?
俺の受け答えは間違っていたのか?
何度も繰り返す自問自答。
答えなんて出るはずもないのに……
「終点ー。終点ー」
何度目かの終点駅。
コンが白石に戻った理由は、俺が草原に行きたくないから。
白石は俺に謝罪をして欲しいんだろうな……
最寄り駅に着くと、もうすっかり夜が更けていた。
家路に着くまでの道のりで、途中に白石の家がある。
ふと彼女の家の前で立ち止まり、空を見上げた。
どこが白石の部屋かなんて知らないが、ひょっこり窓から顔でも出してくれれば気分も晴れるのに……
現実はそう甘くはなかった。
『ま。明日になれば元通りだろ』
くるっと。前を向いて俺は歩き出した。
●
家に帰ってから俺は明日白石とどんなことを話そうか、脳内でシミュレーションをしていた。
今日のことは話さない方がいいよな。
草原ってキーワードもNGだろう。
そういや、さっきの空めっちゃ綺麗だったな! うん。これだ。
次々に、綺麗でありきたりの言葉が頭の中で組み立てられていく。
その度に、自分の言葉ではない気がしてきた。
「いつから俺は、誰かと会話をするのにシミュレーションが必要になったんだ?」
ブンブン。と頭を振って白石にメッセージを送って寝ることにした。
『今日はすまなかったな。また明日』
返事は返って来なかった。
●
翌朝、白石は一見すると普通に見えた。
容姿端麗で何でもそつなくこなす。いつもの白石だ。
俺は自分のスマホを見てはソワソワしていた。
既読。
は付いている。
それなのに返信が来ない。
思えば、白石から返事が来ないのは初めてのことだ。
席替えをして、教室の端と端になってしまった遠くの白石を見る。
あの時俺に見せた笑顔と同じ笑顔を見せている。
俺はあの笑顔を見て、白石は何となく面白くないんだろうな。と感じ取った。
『何で俺はあの笑顔を見て面白くないって分かったんだ?』
机に突っ伏していると、黒い影が突然現れた。
顔を上げると、そこには白石が立っていた。
「お弁当。一緒に食べる約束してたから」
それだけ言うと、白石は俺の隣の席に座った。
いつもなら移動するのだが……
白石は黙々と弁当を食べている。
会話が無くて気まずい。
「なぁ。昨日の夜。空見たか?」
やや上ずった声で俺が話しかける。
「空? 見てないけど?」
「すっげー星が綺麗だったんだぜ!」
「ふーん」
あれ? 会話終了?
「あそこの和菓子屋さ、みたらし団子以外にもおすすめあるんだぜ! 今度買わねぇ?」
「買わない」
え。っと?
「ごちそうさま」
弁当箱をきれにナフキンで包むと、白石は席から立ち上がった。
俺は呆然と遠くなる白石の背中を見つめていた。
ぽん。と肩に手を当てられて振り向くと、
男子が憐れみの表情で見てくる。
やめてくれ。
そんなんじゃない。
確かに、周りから見たら必死に白石の注意を引こうとしているようにも見えるけど。
俺はそんなんじゃないんだ!
俺と白石はユイとコンなんだよ!
そう心の中で叫んで気づいた。
白石がコンでいるのは俺がユイでいるから……
あぁ――
「もう俺はユイじゃないのか……」

