君だけが俺をユイと呼ぶ~第12話 デート~

君だけが俺をユイと呼ぶ

「意外だったな」

 土曜日の朝、白石との待ち合わせ場所で俺が言うと、白石は何が? と目を丸くした。

「てっきり。は? なんで? とか言って断られるかと思ったからさ」

「さすがに断れないでしょー」

 クラスのあの空気だよ? とケタケタ笑うが、それって断りたかったってことじゃ?

「でも嬉しかったよ」

 にこりと微笑む。

 スタスタと先を歩く。

「で。どこに行くの?」

 これだ。今はコンが出ている。

 ●

 今の白石には3つの顔がある。
 クラスのみんなに見せる白石の顔。
 前まで見せてくれていた、少しポンコツなコンの顔。
 そして最近俺の前だけで見せる、不思議探しの顔。

『今日はコンが少し出ている気がする』

「映画かぁー。行ったことないなぁー」

 その言葉を聞いて、俺は飲み物を吹き出しそうになった。

「そうなのか?」

「私が居たところすっごく田舎だよ? キミも知ってるはずなのになー」

「あぁ。草原の場所か?」

「すっごく綺麗なんだよ!」

「今度連れてってくれよ」

「「……」」

 話しの流れで言った言葉だった。
 しかし、この前の電車での出来事が脳裏に浮かぶ。

 白石もきっとそうだったのだろう。

「いつかね……」

 顔が。
 白石になってしまった。

 ●

 今日はきっとデートだ。
 クラスの誰もが羨むデート。

 映画の前にお茶をして、映画を一緒に観て、軽くウインドウショッピングをして、夕飯を食って帰る。
 昨日しっかりとシミュレーションをした。

 だが、
 白石モードの白石はこのプランを許してくれるのだろうか?

「なぁ」

 映画館の道中で声をかける。

「ここなんか有名なお店らしいんだけど、寄っていかね?」

「いいけど、時間は平気なの?」

「まだ2時間はあるからよゆー」

 そう言って入った店内は、人でごった返していた。

 これは、想像以上だ。

「えーとまずは何を頼むか決めないとだな」

 落ち着け俺。
 心臓がうるさい。
 そもそも俺は人混みとか昔から苦手なんだ。
 人酔いしてしまう……

「大丈夫」

 腕を掴まれて、はっきりとした声がする。

「まずは座る席を確保しよ」
 は? 座る席? その前に注文しないと。

「ユイ。しっかりして。コンはずっといるよ?」
 白石が。
 いや、コンが俺の両頬に手を当てて目と目を合わせてくる。

「いくよ」

 ぷいっと。前を向く姿はもう白石だった。

『俺のためにコンに戻ってくれたのか?』
 それにしてもいまの状況、いまのセリフ……

 どこかで俺は同じ経験をしている――

 ●

 失態だ……
 大失態だ……

 せっかく練り上げたデートプランは全て破綻した。

 あろうことか、映画の最中に寝てしまった……
 あの人混みで精神的に疲れたことも、映画の内容がつまらなかったことも、
 言い訳にしかならない……

 おかげで白石はずっと白石モードだし、夕食中に映画の話題を出すことができなかった。

 きっと白石は今日1日つまらなかっただろうよ……

 せめて映画は、俺好みのアニメとかだったら良かったのに……
 まぁそんなの白石は見ないか。

「ごちそうさま」

 口コミほどの味じゃなかったな。
 もっとハンバーガーみたいなお店の方が俺は好みだ。

「今日のプランって、キミが頑張って考えたものなの?」

「まぁ。ネットの情報とか見ながら。白石ならこれが好きだろうなってゆーのを考えてみたんだけど」
「もし――」
「ん?」
 何かを言いよどんだ白石だったが、聞き返す俺に次ぎの言葉は無かった。

「ほんとだ」
 唐突に白石が空を見上げる。
「星。きれいだね」
 見上げながら歩き進む。
「お。おい。危ないぞ」
 慌てて白石の隣を歩く。

「もし――コンだったら別のプランだったのかな?」

 ボソリと言う白石の言葉は、聞き間違いかと思う程にか細かった。

 ●

 白石が星を見て歩く。
 家路までの道のりがどんどん遠くなる。

 それでも、終わりが近づく――
 あぁ。今日が思い出に変わっていく……

 忘れたくない思い出に――

「幸せな想い出も忘れちゃうことってあるよね」
 いつだかに白石が言った言葉だ。

「どんな想い出も」
「え?」

 俺の言葉に白石が足を止める。

「忘れちゃいけないんだな」
「……それは違うと思う」
 その声は驚くほど優しかった。

 足を止めた白石が真っすぐと俺の目を見据える。

「忘れたっていいんだよ。大事なのは覚えておくことじゃない」
 ここで白石は一息置いた。
 一瞬目を伏せ、再び俺を見る。
「大事なのは、今の気持ちだよ」

 今の……気持ち……
 俺は――何か過去にしてしまった……
 そのことがコンとも関係している。
 俺は今の白石との関係を続けたい。
 過去を知ることで、コンとの関係は決裂してしまうかもしれない……
 俺は――
 過去のことを知らずに今のままの関係を続けたい……

「そうか……」

 白石の言葉1つ1つが胸に染みこむ。
 感情があちこちにいきながら、気がつけば家の近くまで歩いていた。

 この道を真っすぐ歩けば白石の家だ。

「こっち曲がってもいいか?」

 言葉が自然に出てきた。

「いいよ? なにかあるの?」

 いや。何もない。
 ただ、俺がもう少しだけ白石と一緒に居たいんだ。

 あぁそうか――

 俺はコンじゃなくて、白石のことが好きなんだな……

「今度はさ、アニメ系の映画の方が私は好きかも。ご飯もハンバーガーの方が好きかな」

 白石の家の前で白石が俺に言う。

「あぁ。次はそうするよ」

 次を期待してもいいのか?

「楽しみにしてるね。また誘ってね」

 ばいばい。と手を振ってから白石は家の中へと入って行った。

 次はアニメ系の映画だ!
 飯はハンバーガーだな?

 よぉーし!

 自然と足取りが軽くなった。

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