君だけが俺をユイと呼ぶ~第20話 不思議探し同好会~

君だけが俺をユイと呼ぶ

「ってわけで、塩田も放課後にここに集まるって流れになっちゃったんだけど、いいかな?」
 その日の放課後、先に美術準備室で俺が塩田に言う。
「その流れ、ダメって言えない流れじゃん……」

 塩田がむすっとして言う。
 確かに勝手に決めたことだが、これが最善な気もする。

「すまん」
「別にいいよ? ってゆーかホントは嬉しいかも」

「え?」
「今までの私って、放課後に1人で美術準備室で絵を描いたりしてただけだから……」
「今までと違う体験ができて嬉しいってこと?」
「それもあるけど。何よりも誰かと一緒に放課後を過ごすのが嬉しいかな」

 にこり。と笑顔で塩田が答える。
「何にしても、塩田が嫌がんなくてよかったよ。そろそろみんなも来ると思うからさ」

 ちょうど俺が言い終えた時にドアが空いた。

 顔を覗かせたのは白石だった。

「白石さんまで誘ったの?」
 塩田が驚く。

 そう言えば、誰が来るのかとか全然言ってなかった。
 ただいつも通りに放課後ここに来て、みんなも来るって話しただけだった。

「問題あった?」

 白石が冷たく言い放つ。
「も……問題はないです……ただ驚いただけで……ごめんなさい……」

「何だい何だい。もうパーティーは始まってるのかい?」

 静まり返りそうな場の空気を壊すように、落合が登場した。

「さー入ったはいったー」
 落合の後ろから佐々木が押して全員が揃った。

 ●

「えーと……」
 一瞬。白石と塩田の間に不穏な空気が漂ったのが気まずいが、とりあえず俺が話しを進めるしかないだろうな。

「この学校唯一の美術部の塩田です」
 俺がみんなに紹介すると塩田が、ちょっと! と言う。
 しかし、何か俺が言う前に佐々木が話し出した。
「へー。さく美術部だったんだ? 確かに絵上手いもんねー」

 確かに風景画で褒められていたな。

「白石も絵うまかったよな?」

 ふと思い出して俺が言うと、落合が意味深な目配せをしてきた。

「別に。普通」
 相変わらず冷たく言い放つ。

「何でこの教室にしたの?」
 白石が聞いてくる。
 なんだかピりついてるなー。

「いや。たまたま塩田と会って、それで」
「ちょっとトイレ。行くぞ朝倉!」

 落合は俺の話しを遮って、無理やりに俺を廊下に連れ出した。

「お前はバカなのか?」
 ヒソヒソ声で猛烈に怒っている。
「何がだよ?」
「白石と塩田は初対面だろ? しかも正反対同士!」
 まぁ確かに性格とかは似ても似つかない。
「無理やりあの2人を会話させると、空気が気まずくなるぞ。まずは場を慣れさせろ」
 とは言ってもなぁ……
 塩田を普通に話せるようにさせるのが本来の目的だしなぁ……
「白石も塩田も。人と話すの苦手だろ? そういうタイプの人は、まずは慣れないと心を開けないんだよ」

 俺はこの言葉を聞いて、改めて落合のことを見た。

「何だよ」
「すげぇな」
 素直な言葉だった。
 心から感心した。

「とにかく無理に話させるなよ? 話題振ったりするのも無しだからな」

 念押しされた。

 なぜかまた。頭が痛んだ。
 落合といると、頭痛がすることがある。

「なぁ。変なこと聞いてもいいか?」
 俺が口を開くと、落合は準備室のドアに手をかけた。
「言っておくが」
「俺は女が好きだからな?」
 ニヤリと笑って振り返ってくる。
 知っとるわそんなこと。

「俺と落合って前にどこかで会ったことあるか?」
「いや? ないと思うけど?」

 そうか……
 じゃあこの頭痛は何なんだ?

 ●

「で。さっそく始めようぜ! 友達の定義について」

 準備室に戻るなり落合が言う。

「私考えたけど。友達ってそもそも定義づけられるものじゃなくない?」
 佐々木だ。
「お姉さん! そりゃ根本を覆されますよ!」
 あちゃー。と落合がおでこを叩く。

「私もそう思う」
 白石も佐々木に同意した。
「そもそも。友達って、なろうと思ってなるものじゃなくて気が付いたら自然となってるものでしょ」

 俺は白石を見た。

「何?」

 目を細められた。
 いや。おかしいだろ。
 だってこの前、友達の定義は分からないって言ってたじゃんか。

 なのに何だよこの模範解答は。

 このままじゃこれでおしまいになる。

 この集まりが1回きりになってしまう。

 それじゃ意味ないのに……

「だなー。友達に定義なんてないよなー。答え何て見つからないわけだー」
 落合が両手を頭の後ろに組んで結論付けた。

 あぁ――
 終わった……

 これでもう解散。

 ごめんな塩田。
 力になれなくて……

「で?」

 落合が俺の方を見てくる。
 で? とは?

「次は何について調べる? 考察する?」
 ニヤリ。と笑ってくる。
 落合……お前ってやつは!

「何かいい案あるか?」

 俺が他の4人に聞く。
 どうやら誰もいい案がないらしい。

 そういえば――

 結構前に白石が言っていたことがあった……

「ここの教室」
 白石が俺を見る。
「美術準備室なのに、何で美術室と遠く離れてるんだろうな……」

「言われてみれば!」

 佐々木が前のめりになる。
「前は違う教室だったとか?」
「先生に聞いたらつまんねーし、今度図書室で調べてみよーぜ!」
 落合もワクワクしていた。

「なんならさ。色んな不思議をこの5人で探さないか?」

 ガタン。と大きな音を立てて白石が椅子から立ち上がっていた。

「白石?」
 どうした? と聞いてみたが、何でもない。とだけ返された。

「んじゃあ。不思議探し同好会結成だな!」
「不思議探し同好会! 朝倉ー! いいネーミングセンスしてるなー」
 落合が肩を組んでくる。
「塩田もいいか?」
 端の方でもじもじしていた塩田に声をかけると、びくりと身をすくませた。

「あ。うん……いい……よ……」
 最後にチラリと白石の方を見た。

 あぁ。気まずいんだな。

「白石は嫌か?」

「嫌……」
 ギロリと睨まれた。
「じゃないけど……」
 ぷいっとそっぽ向かれてしまった。
 そのまま白石は準備室を出て行ってしまった。

「また明日」

 その言葉だけを残して。

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