俺に結婚を迫ってきたのは吉岡だ。
無理やり頷かせたのも。
それを同意したとか約束したとか言ってやがる……
やはり吉岡は自分勝手で、絶対に俺が好きになるタイプではない!
そうはっきりと理解すると、俺はベッドから起き上がった。
「はるくん。また私から逃げるんだね」
「言っておくが。俺は絶対に吉岡のことは好きにならないぞ?」
「それなら私は、何が何でも私のことを好きにさせてみせるわ。もちろんズルいやり方もね」
ベッドに腰掛ける吉岡を無視して俺は、保健室から出て行った。
「あ」
そこには、白石が居た。
「ずっと待ってたのか?」
「心配……だったから……」
白石。
震えてる?
「この前」
「おー。いたいたー」
白石が何か言おうとすると、遠くから声がした。
落合と佐々木と塩田だ。
「いきなり倒れたって聞いてびっくりしたぞー」
落合が肩を組んでくる。
「大丈夫?」
塩田が本気で心配している。
「この様子なら平気でしょ」
俺が答える前に佐々木が答えた。
「何で佐々木が答えるんだよ」
みんなが爆笑した。
ふと。俺は決意した。
特に理由があるわけではない。
成功するなんて思わない。
けど俺は、今の気持ちをはっきりと佐々木に伝えようと思った。
●
「で? 改まって話しって何?」
その日の夜。
俺は佐々木を呼び出した。
佐々木は、さむ。とか言って体をさすっている。
「もうすっかり冬だな」
「タイムカプセル早く埋めないとねー」
「すっげー。星がきれーだ」
「冬になると星がよく見えるよね。ほら、あそこの星とあの星とあれで、冬の大三角」
「夏は知ってたけど冬もあるんだ?」
「だねー」
少し前なら秋の虫が鳴いていたかもしれない。
しばらくの沈黙の後、俺は口を開いた。
「俺はたぶん……佐々木のことが好きだと思ってた……」
「だろうね」
「けど……」
真っすぐに佐々木の目を見る。
「よく分からないでいる。迷いがあるような」
「そりゃあそうでしょー」
俺が真剣に言った言葉に対して、佐々木は意外な言葉を俺にかけた。
「朝倉の中にはずっとかおるちゃんが居るもん」
「白石か……」
「そ! んで、叶いそうにないから。現実逃避したいから、近しい私のことを好きって勘違いしてるだけ。ま。私も好きな人いるからどっちにしろフラれてたけどね」
「なんだと!」
俺と白石は最後は笑い合いながら別れた。
フラれたのにスッキリして、自分の気持ちを再確認できた。
俺は白石のことが気になっている。
けど、今の俺は白石にふさわしくない。
まずは自分の過去を受け入れる。過去をしっかりと知る。
しげのことも……
「一度白石と話さないといけないな。吉岡とも……」
●
「白石」
翌朝、早速俺は白石に声をかけた。
「なに?」
「相変わらずの白石モードだな。お前が何でキャラを使い分けるのか知らないけど、俺の前では普通でいろよ」
「普通? 普通ってなに?」
「え? いや。ちょっと待て。俺はただ」
「ただって何? 自分の普通を押し付けないでくれない?」
「私は今私のままでいるのに、朝倉くんはそれを否定するんだ?」
「いや。否定じゃなくて」
「私のこと何も知らないくせに簡単なこと言わないでよ!」
終わった。
俺は完全に白石に嫌われてしまった。
「一体どうしちまったんだ朝倉?」
「どうって?」
「突然わけのわからないことを白石に言うから。そりゃ白石も戸惑うんじゃねーか?」
ぽん。と落合に肩を叩かれるが、わけのわからないことじゃないんだ。
本当の白石は。
本当のコンは……
俺しか知らない?
思わず白石を遠目に見た。
あの日、白石が転入して来た日、俺は人目で白石がつまらなそうにしていることに気づけた。
それはきっと俺にしか分からないものなんだ。
白石は、それを大切にしようとしてくれている?
きっとその理由が俺と白石の過去であり、あの草原なんだ……
俺はもう逃げない!
●
私は。
朝倉くんが好きだ。
朝倉くんはきっと白石さんが好きだ。
それでも諦めることはできない。
朝倉くん。
今年のクリスマスを一緒に過ごしてくれますか?……
「あれ? 塩田じゃん」
「落合くん……」
正直苦手。
私の心を見透かされているような気がして。
悪気があるわけじゃないのは分かる。
でも、たまにデリカシーのないことを言う。
「何してんの?」
「ちょっと編み物の勉強をしようかなと」
「へー? 塩田が編み物? できるの?」
ほら。こういうところ。
きっと落合くんは気づいている。
私の気持ちにも、私が何で編み物をしようとしているのかも。
「んじゃあ、俺にマフラーでも編んでくれよ」
こういうことを平気で言えるのが羨ましい。
「気が向いたらね」
これで心置きなくマフラーが編める。
何だかんだ、落合くんはいいパスを出してくれる。
クリスマスに絶対告白する!
