「なぁ聞いてるか?」
俺は不機嫌そうな声を出した。
「だってよー。朝倉の話しぜーんぶ白石のことなんだもん」
落合が大あくびをする。
「いや、だからよ。絶対に知ってることを白石に聞いたんだよ」
「分かった分かった。それなのに、知らないって不機嫌そうに言われたんだろ?」
「そうなんだよー。何か俺やったと思うか?」
思わず俺は立ち上がっていた。
そして、向かい側の落合に向かって問い詰めるようなことをしていた。
「まー落ち着けよ」
こんなことをしても、落合の俺に対する態度は変わらない。
ありがたい。
「悪い」
素直に謝る。
「ま。少なくともあの神社では何もしてないと思うぞ?」
そう言うと落合は、牛丼大盛を口にかき込む。
「俺が思うには白石よりも問題なのがあると思うがな」
「どういう意味だよ」
落合はたまにこういうところがある。
知ってるくせに教えてくれない。
「何となくだからな。勝手な憶測では言えないだろ?」
これがいつもの落合の口癖だ。
「それよりもよ」
「俺の相談はそれよりもなのかよ」
冗談で突っ込むと、落合がチラシを広げた。
「この前朝倉が言ってたやつってこれだろ?」
夏祭りのチラシだった。
「これだこれ。懐かしいなー。昔コンとよく行ったんだよなー」
「コン? 昔の友達か?」
「あぁそうな」
ここまで言いかけて俺は思い至った。
コンは白石だ。
俺はコンとよく遊んでいた。
草原にいた少年はユイと呼んでいた。
そしてあの草原には俺と白石しかいない。
小さい頃から、白石はコンで俺がユイ?
ならあの少年が……親友?
いやでも子供たちは俺と白石しかいないはず……
「どした?」
「あぁ。何でもない……」
夏祭りに行けば。
あの神社に行けば。
あの草原に行けば全部が分かるのかもしれない……
●
「悪かったなー。急に誘って」
落合が駅前で言う。
あの日落合は全員を夏祭りに誘っていた。
女子3人はそれぞれに浴衣を着ており、みんな似合っていた。
「おーおー! 馬子にも衣裳だな」
落合が茶化す。
「どーゆー意味よ」
ポカ。と佐々木が落合のことを叩いていた。
「これねー。去年のやつなんだけど、まだ着れたんだよねー」
電車の中で佐々木が俺に言う。
「いいんじゃないか?」
ここで気の利いた一言でも言えたらと思う。
「今度はみんなで海にでも行っちゃう?」
「海? もうクラゲとか出てくるんじゃないか?」
だいたいお盆過ぎると海には入れなくなると聞いたことがある。
「じゃあプールだね。水着、楽しみにしていたまえ」
にしし。と佐々木が笑うが、決してやましい気持ちはない……はずだ……
「この祭りも俺来たことあるんだよなー」
「もう思い出しても頭が痛くならなくなったんだ?」
「不思議とそうだな。でも親友関係のことは分からんがな」
つまり俺にとってコンは親友ではなかったってことか……
「後はかおるちゃんとの関係が良くなればだね」
にこっと微笑まれる。
心臓が跳ねた。
今は白石との関係よりも佐々木との関係の方が俺は気になるがな……
●
「うっわー!」
佐々木が目を輝かせる。
夏祭り会場は人でごった返していた。
「はぐれそうだな」
俺が不安そうにすると、塩田も同じように不安そうにしていた。
「はぐれたら連絡すれば平気っしょ!」
佐々木が白石の腕を引っ張って行った。
「わっ」
白石の声だけがこの場に残った。
「おい待てよ」
落合も2人の後を追った。
俺と塩田は置いてけぼりにあった。
「人混みは苦手だ」
ポツリと俺が言うと塩田も、私も。と同意してくれた。
「何か見たい屋台とかあるか?」
俺が聞くと、塩田はなかなかに難しい答えをしてきた。
「食べたいのは焼きそばなんだけど、人が少ないのがいい」
だが。気持ちは分かる。
「人酔いとかするタイプ?」
「ううん。単純に人が多い場所が苦手なの」
俺が聞くと塩田は首を横に振った。
「わかるわー。なんか不安な気持ちになるよな」
「なるなる! それにさ、ちょっと寂しくもならない?」
めっちゃ分かる!
自分が1人で、人混みが多いところを歩くと不安になって寂しくなる。
誰かが傍にいればいいのに。と思う。
だからなのか?
今は不思議と寂しい気持ちはない。
「なんか今は平気だな」
「え?」
ポツリと俺が言うと、塩田が聞き返す。
「寂しい気持ちはないな。みんながいるからか?」
「言われてみればそうかも。めっちゃ不安だけどね」
ふふふ。と笑いかけてくる。
「さっさと食い物買って、ゆっくり落ち着ける場所探そうぜ」
「せっかくなら、この後上がる花火が見れる場所を確保しちゃおうよ!」
「よっしゃ! 確かこの先に川があるからそこが穴場スポットだぜ」
俺は昔の記憶を頼りに塩田を川まで案内した。
案の定、人が少なく花火が見れるように見晴らしがいい。
「こんないい場所があったんだね」
屋台の明かりが川に反射して、幻想的な雰囲気を演出している。
「きれい……」
「だなー」
あー。俺ここもコンと一緒に来たことあるわ。
一緒に花火を見て――
「お待たせー」
佐々木がたくさんの戦利品を落合に持たせてやって来た。
白石が頬にわたあめを付けていたが、すぐに打ちあがった花火に目を奪われた。
●
「ユイー! きれーだねー!」
「コン! 人が多すぎて死ぬ!」
「だいじょーぶ! ユイのことはコンが守るから!」
「コン。ほっぺにわたあめ付いてるよ」
「えー! 取って取ってー」
「ほら。食べちゃおーっと」
「もぉーユイはー。ありがとね」
「コン! あっちに川あったよね! 川で花火見ようよ!」
「いいよ! はい。ユイ。手、繋いでてあげるよ」
「コンが繋ぎたいんでしょー?」
●
――あぁそうだ。
俺はこんなにも大切な想い出を忘れていたんだ……
今もあの時と同じだ。
白石はほっぺにわたあめをつけていて、お面を頭につけてる。
忘れたくない大事な想い出。
そしてコンは俺に言ったんだ。
花火の音で俺はその声が聞こえなかったのに、何て言ったのか何となく分かっていたんだ。
思わず涙が流れた。
白石の頬も濡れていた。
もしかして白石。
俺と同じことを考えてる?……
あの時の白石の言葉が蘇る。
――これからもずっと一緒に花火見ようね!

