君だけが俺をユイと呼ぶ~第26話 夏祭り~

君だけが俺をユイと呼ぶ

「なぁ聞いてるか?」
 俺は不機嫌そうな声を出した。

「だってよー。朝倉の話しぜーんぶ白石のことなんだもん」
 落合が大あくびをする。

「いや、だからよ。絶対に知ってることを白石に聞いたんだよ」
「分かった分かった。それなのに、知らないって不機嫌そうに言われたんだろ?」
「そうなんだよー。何か俺やったと思うか?」

 思わず俺は立ち上がっていた。
 そして、向かい側の落合に向かって問い詰めるようなことをしていた。

「まー落ち着けよ」
 こんなことをしても、落合の俺に対する態度は変わらない。
 ありがたい。

「悪い」
 素直に謝る。

「ま。少なくともあの神社では何もしてないと思うぞ?」
 そう言うと落合は、牛丼大盛を口にかき込む。

「俺が思うには白石よりも問題なのがあると思うがな」
「どういう意味だよ」
 落合はたまにこういうところがある。
 知ってるくせに教えてくれない。

「何となくだからな。勝手な憶測では言えないだろ?」

 これがいつもの落合の口癖だ。

「それよりもよ」
「俺の相談はそれよりもなのかよ」
 冗談で突っ込むと、落合がチラシを広げた。

「この前朝倉が言ってたやつってこれだろ?」
 夏祭りのチラシだった。
「これだこれ。懐かしいなー。昔コンとよく行ったんだよなー」
「コン? 昔の友達か?」
「あぁそうな」
 ここまで言いかけて俺は思い至った。

 コンは白石だ。

 俺はコンとよく遊んでいた。

 草原にいた少年はユイと呼んでいた。

 そしてあの草原には俺と白石しかいない。

 小さい頃から、白石はコンで俺がユイ?

 ならあの少年が……親友?

 いやでも子供たちは俺と白石しかいないはず……

「どした?」
「あぁ。何でもない……」

 夏祭りに行けば。

 あの神社に行けば。

 あの草原に行けば全部が分かるのかもしれない……

 ●

「悪かったなー。急に誘って」
 落合が駅前で言う。

 あの日落合は全員を夏祭りに誘っていた。

 女子3人はそれぞれに浴衣を着ており、みんな似合っていた。

「おーおー! 馬子にも衣裳だな」
 落合が茶化す。
「どーゆー意味よ」
 ポカ。と佐々木が落合のことを叩いていた。

「これねー。去年のやつなんだけど、まだ着れたんだよねー」
 電車の中で佐々木が俺に言う。
「いいんじゃないか?」
 ここで気の利いた一言でも言えたらと思う。

「今度はみんなで海にでも行っちゃう?」
「海? もうクラゲとか出てくるんじゃないか?」
 だいたいお盆過ぎると海には入れなくなると聞いたことがある。

「じゃあプールだね。水着、楽しみにしていたまえ」
 にしし。と佐々木が笑うが、決してやましい気持ちはない……はずだ……

「この祭りも俺来たことあるんだよなー」

「もう思い出しても頭が痛くならなくなったんだ?」

「不思議とそうだな。でも親友関係のことは分からんがな」
 つまり俺にとってコンは親友ではなかったってことか……

「後はかおるちゃんとの関係が良くなればだね」
 にこっと微笑まれる。

 心臓が跳ねた。

 今は白石との関係よりも佐々木との関係の方が俺は気になるがな……

 ●

「うっわー!」
 佐々木が目を輝かせる。

 夏祭り会場は人でごった返していた。

「はぐれそうだな」
 俺が不安そうにすると、塩田も同じように不安そうにしていた。

「はぐれたら連絡すれば平気っしょ!」

 佐々木が白石の腕を引っ張って行った。

「わっ」

 白石の声だけがこの場に残った。

「おい待てよ」
 落合も2人の後を追った。

 俺と塩田は置いてけぼりにあった。

「人混みは苦手だ」
 ポツリと俺が言うと塩田も、私も。と同意してくれた。

「何か見たい屋台とかあるか?」
 俺が聞くと、塩田はなかなかに難しい答えをしてきた。
「食べたいのは焼きそばなんだけど、人が少ないのがいい」

 だが。気持ちは分かる。

「人酔いとかするタイプ?」
「ううん。単純に人が多い場所が苦手なの」

 俺が聞くと塩田は首を横に振った。

「わかるわー。なんか不安な気持ちになるよな」
「なるなる! それにさ、ちょっと寂しくもならない?」

 めっちゃ分かる!
 自分が1人で、人混みが多いところを歩くと不安になって寂しくなる。

 誰かが傍にいればいいのに。と思う。

 だからなのか?

 今は不思議と寂しい気持ちはない。

「なんか今は平気だな」
「え?」
 ポツリと俺が言うと、塩田が聞き返す。

「寂しい気持ちはないな。みんながいるからか?」
「言われてみればそうかも。めっちゃ不安だけどね」
 ふふふ。と笑いかけてくる。

「さっさと食い物買って、ゆっくり落ち着ける場所探そうぜ」
「せっかくなら、この後上がる花火が見れる場所を確保しちゃおうよ!」
「よっしゃ! 確かこの先に川があるからそこが穴場スポットだぜ」

 俺は昔の記憶を頼りに塩田を川まで案内した。

 案の定、人が少なく花火が見れるように見晴らしがいい。

「こんないい場所があったんだね」

 屋台の明かりが川に反射して、幻想的な雰囲気を演出している。

「きれい……」
「だなー」

 あー。俺ここもコンと一緒に来たことあるわ。

 一緒に花火を見て――

「お待たせー」

 佐々木がたくさんの戦利品を落合に持たせてやって来た。

 白石が頬にわたあめを付けていたが、すぐに打ちあがった花火に目を奪われた。

 ●

「ユイー! きれーだねー!」
「コン! 人が多すぎて死ぬ!」
「だいじょーぶ! ユイのことはコンが守るから!」
「コン。ほっぺにわたあめ付いてるよ」
「えー! 取って取ってー」
「ほら。食べちゃおーっと」
「もぉーユイはー。ありがとね」
「コン! あっちに川あったよね! 川で花火見ようよ!」
「いいよ! はい。ユイ。手、繋いでてあげるよ」
「コンが繋ぎたいんでしょー?」

 ●

 ――あぁそうだ。

 俺はこんなにも大切な想い出を忘れていたんだ……

 今もあの時と同じだ。

 白石はほっぺにわたあめをつけていて、お面を頭につけてる。

 忘れたくない大事な想い出。

 そしてコンは俺に言ったんだ。
 花火の音で俺はその声が聞こえなかったのに、何て言ったのか何となく分かっていたんだ。

 思わず涙が流れた。
 白石の頬も濡れていた。

 もしかして白石。
 俺と同じことを考えてる?……

 あの時の白石の言葉が蘇る。

 ――これからもずっと一緒に花火見ようね!

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