「全て?」
俺は涙を流す白石に質問を投げかけた。
全て。という曖昧なものでは納得できないからだ。
「全ては全てだよ」
白石は俺の顔を真っすぐに見た。
あぁ――
この顔、
俺は見覚えがある……
「ねぇユイ……」
白石の頬に涙が零れ落ちる。
「ユイがコンとのことを忘れちゃったのは、コンのことが嫌いになっちゃったからなの?……」
違う。
それは絶対に違う。
なぜだろう……
口に出せないのは……
「ごめん。忘れて……」
そう言う白石の頬はもう濡れていなかった。
でもその表情はとても悲しそうで、寂しそうで、優しそうで――
女神がいるならきっとこんな人だ――
●
あれから白石のあの時の表情が頭から離れない。
結局俺には、あそこに何があったのかは分からないままだ。
「白石のあの顔……絶対に幼い頃に見てるんだよなー」
「またそれかよ。ホント白石自慢が多いな朝倉は」
落合に小突かれた。
「別に自慢してるわけじゃなくて、俺はたぶん、白石の寂しそうな顔とか悲しそうな顔とかが忘れられないんだ」
「はいはい。そういう顔をたくさん見てるってことね」
「というよりも。女々しいんだと思うな……」
「じゃあ残る問題もあと少しだな」
「残る問題?」
「いや。こっちの話し。とりあえず白石が同好会に戻ってきそうでよかったよ」
「塩田も白石に声かけてくれるって言ってたわ」
「お。ならもう戻ってきそうだな。はやくタイムカプセル埋めちゃおうぜ」
「あそこの神社でいいのか?」
「いいんじゃないか? 俺たちの原点だしな。冬になったら雪とか降って埋めるの大変になるぞー」
「もう冬だろ」
「冬と言えば、12月は白石の誕生日だからな?」
落合に言われて思い出した。
そうか……もう白石の誕生日なのか……
昔は2人っきりで祝ってたのに、今年はみんなで祝うんだな。
そう思った瞬間、なぜか胸がチクリと痛んだ。
●
私はずっとはる様……いや。
朝倉くんの人生の足を引っ張っていたんだね……
自分の欲求を満たすために。
いや。それも違う。
「私は認めたくなかっただけなんだよね……」
「それが分かっただけでも前進でしょ?」
この女は最近いつも私の傍にいる。
そして正論をズバっと言ってくる。
「佐々木ゆかり。この私に正面きってこういうこと言えるのは、アナタと朝倉くんだけよ」
「それならもう、私たちは友達ね」
そう言ってこの女は私に笑顔を向けてくる。
「キミはいいよね」
などと言ってくる。
「何がよ。フラれたのよ?」
「自分の気持ちを伝えられてるじゃん。私なんて伝えられてないからねー」
「それは、フラれてでも伝えた方がいいものなの?」
「当たり前じゃない! それにこういう言い方をしていいのかは分からないけど。フラれたって好きでいていいのよ?」
「アナタは私が知らないことをたくさん教えてくれるのね」
「私も教えてもらったしねー。それにしてもそうかー……。朝倉は目の前で親友がねぇ……そりゃ頭も痛くなるし思い出したくないだろうし、私たちなんかよりも大きな物を抱えていたんだね……」
「私ははるくん……朝倉くんに」
「はるくんでいいよ。自分の気持ちに嘘はついたらダメ」
「そうね。私ははるくんにとんでもない傷を負わせてしまったわ……これからどうすればいいの?」
「そうね。難しいことだけど、どうもしなくていいと思うわよ? 強いて言えば、昔のことで執着したりすることは辞めてあげたら?」
「離れなくていいの?」
「離れたいの?」
「離れたくない。けど、一緒にいちゃいけない気がしてる……」
「大丈夫大丈夫。離れたくないなら好きでいな。朝倉はそんなことで文句を言うような男じゃないわ。それに、朝倉自身もこのことを乗り越えたいって思ってるみたいだしね」
そう言ってこの女は私のことを優しく抱きしめてくれた。
まるで天使みたい……
●
「ユイがコンとのことを忘れちゃったのは、コンのことが嫌いになっちゃったからなの?……」
この言葉がずっと頭から離れない。
「なんですぐに否定できなかったんだろ?」
俺は絶対に白石のことを嫌いになんてならない。
いや。すぐに否定できなかった答えは分かってる。
俺は、怖かったんだ……
過去の真実を知ることがどうしようもなく不安で怖くて……
白石に嫌われそうで――
「そっか。俺……白石のことが好きだったんだ……」
草原で遊んでいた時から今も変わらずに――
