君だけが俺をユイと呼ぶ~第33話 吉岡さくら~

君だけが俺をユイと呼ぶ

「だれ?」

「吉岡さくらって名乗ったはずだけど?」

「それは聞いた。そうじゃなくて」
「私が何者か聞きたいってことでしょ?」
「分かってるならもったいぶらずに言えば?」

「アナタってホント口悪いのねー。これでクラス1どころか学校1の美女って言われてるわけ?」
「別に言われてないし興味ない」
「ふーん? ま。どうでもいいわそんなの。私ははるくんと小学校が一緒だったの」

「あっそ。興味ないから。さよなら」
「逃げるんだ? そうよね。アナタは忘れられる女。私は忘れられない存在だもんねー?」
「別に忘れられてない」
「あら? そうなのね? じゃあさっきのアナタの言葉は何だったのかしらねぇ?」
「うるさい。盗み聞きなんて趣味悪い」

「正直。アナタが自分のことをコンって言ったのに驚いたわ……アナタもわざとはるくんが好きになるあだ名を付けていたのでしょうけど、無駄だったようね」
「違う! そんなんじゃない!」
「そうまでしてはるくんを射止めたいなんて意外だったわ。それにしてもどこで知ったの? はるくんが小さい頃に恋していた相手の名前を」
「え? コンのことを好きでいてくれてたの?」
「まぁ小学生の頃はそうだったわ。今はとっくに忘れているみたいだけどね」
「ユイ……」
「大丈夫? 私の名前はさくらよ? アナタも必死なのは分かるけど、自分のことをはるくんが昔好きだった人と同じあだ名にするのは趣味が悪いわよ?」

 ●

 私に言いたいことだけ言って、吉岡って子は帰って行った。

 お金持ちなのか知らないけど、でっかい車がお迎えに来てた。

 それにしてもまたあの感じだ……

 私が何もしていないのに周囲から疎まれる。

 だから人を寄せ付けないキャラを演じているのに……

 それよりもユイは小学生の頃までは、私のことを覚えてくれてて好きでいてくれてた。

 小学校に上がる前にユイは引っ越しちゃったのに……

 だからこそあの約束をしたんだよね……

 でも。
 ユイはもう忘れちゃったよね……

 それに今の私とユイとの関係は最悪……

 私が悪いんだよね……

 他の女子とユイが仲良くしてるのが嫌で、独り占めしたくて……

 謝らないと。

 ●

 翌朝、俺は覚悟して登校したのだが、色々と追及されることはなかった。

 そこは安心できる。

 とゆーかなんで俺がこんなにもビクビクしなきゃいけなんだよ!

 こうなったのも全て白石のせいだ!

 元々俺は平穏な高校生活を送りたかったのに、白石が俺の席の隣になったから。

 トイレに行く俺に声をかけたから。

 高校に転校なんてしてきたから……

 白石なんか――

「ねぇ」

 そう思っているそばから、白石に声をかけられた。

「なに?」

 ちょっとつっけんどんな言い方すぎたか?
 いや。このくらいの方がちょうどいい。

 もう白石とはただのクラスメイト。ただの同好会仲間になるんだ。

「昨日のことなんだけど」
「あぁその話しをするのはやめよう。お互いのためによくない」

 俺は白石の言葉を遮って、話しをきっぱりと終わらせた。

 それよりも、白石と親密だと周囲に思われたくない。

 俺は以前のようにトイレへと立った。

「おい朝倉?」

 落合が声をかけてくる。

「トイレに行くだけだよ」

 何でもない。
 という雰囲気を出してみたけど、出せてたかな?

 ●

「ちょっと冷たすぎるんじゃない?」
 授業が始まる直前に佐々木が言ってくる。

「何が?」
「かおるちゃんに対してだよ。確かに昨日のことがあって、まだ喧嘩? の最中なのかもしれないけどさー。かおるちゃんに話しもさせないってのは強引すぎるんじゃない?」
「それは」
 言い返そうとしたら、授業が始まってしまった。

 白石のことを落合に言われるのはいい。
 落合とは親友だ。

 けど。
 佐々木に言われるのは何だか嫌だなぁ……

 佐々木にとって俺が眼中にないみたいな……

<ちゃんと仲直りしてよ?>
 佐々木からだ。
 もう一通。
<同好会のみんなが気まずくなっちゃうんだからね?>
 そんなこと俺に言われても困る。
 そもそも原因は白石にあるのだから。
<俺が悪いのか?>
 頭に血が上っていた。
 聞かなくてもいいことを聞いてしまった。
<そうは言ってないでしょ?>
 口には出してなくても、そう言ってるようなものじゃないか?
<今日の帰り。少し話そうか>
 いいだろう。帰りに佐々木にははっきりと言おうじゃないか。
 今までの白石の行動が原因で今の俺があるということを。

 ●

「はるくん」

 トイレから帰ると突然声をかけられた。

「やっと会えたね」

 振り返ると、見覚えのある顔がそこに立っていた。

「……まさか……」

 失礼だとは思ったが、思わず指を指さずにはいられなかった。
 指がカタカタと震える。

「吉岡?……」

「久しぶりだね」

 にこりと微笑む彼女とは対照的に、俺は強烈な頭痛に襲われた――

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