「で。今回はちゃんとした相談なんだろうね?」
女子が多いカフェで、向かいに座りながら佐々木が身を乗り出す。
顔が近づいて心臓が高鳴る。
「前に記憶の一部が抜けてるって話ししたの覚えてる?」
「えぇ。もちろん」
佐々木が頷く。
その行動の1つ1つが俺の心を奪っていく。
「白石のことじゃなくて落合のことなんだ」
「頭が痛くなるとか言ってたやつ?」
「俺は過去に落合には会っていない。これは落合が言っていたから合ってると思う」
ここで一旦俺は間を置いた。
「で、落合に似ている人物と俺が知り合いだったんだと思う」
「友達とかじゃなくて知り合いなの?」
佐々木の言葉に俺は頷いた。
「友達なのか、親友なのか、知り合いなのかは分からない」
「そこまで覚えていないのに、落合に似た人が居たことは確定なんだ?」
佐々木が小首を傾げる。
「落合と一緒にいると頭が痛くなるってことはたぶんそうだと思う。んで、俺は多分過去にその落合に似た知り合いを」
ここで俺は言葉に詰まった。
俺が今思っていることを佐々木に伝えたら、佐々木は俺のことを軽蔑するだろうか?
「ん? どった?」
佐々木と目が合う。
心臓が跳ねた。
佐々木に隠し事をしたままではいられない。
「たぶん……その人のことを俺は殺してる……」
俺は目を伏せた。
佐々木の顔を見られなかった。
しばらくの沈黙の後、佐々木が笑い出した。
「それはないんじゃないかな?」
落合と同じだ。
「朝倉って人を殺せるようなやつじゃないもん」
「落合にも言われたんだけど、それ以外に理由が思い浮かばないんだよ」
「んー。私的には、朝倉が思い出したくないから頭が痛くなってるだけだと思うけど? なんてゆーの? 頭が拒否してるとゆーか心が拒否してる感じ?」
けど……あの記憶が正しいならば、その相手はきっと親友になった人物なんだぞ?
親友を忘れて、思い出したくないなんてことあるのか?
「まぁさ。私には難しいことは分からないけど。今朝倉ができることって、今の友達を大切にして、今度こそ思い出したくない思い出にしないことなんじゃない?」
にこりと佐々木が微笑む。
確かにそうかもしれない。
けど。
俺には親友がいて、その親友をきっと失っていて、それで思い出したくない思い出になっているんだ……
それならば、その思い出したくない理由ってなんだよ。
殺した。以外にあるのか?
なぁ。頼む。教えてくれよ佐々木……落合……
白石。お前なら知ってるのか?……
「もうすぐ、さくの誕生日だね」
佐々木があからさまに話題を変えた。
「あぁ。10月だっけ?」
「かおるちゃんと一緒に誕生日パーティーのプラン立ててくれない?」
●
不思議なことに、佐々木に話したことで心が軽くなっていた。
嫌われたり軽蔑されなかったから、気持ちが楽になったのかもしれない。
あの時佐々木が話題を逸らしてくれたのは正解だったということか……
「今日はなに?」
不機嫌そうに白石が言う。
何だかここ最近の白石はとても不機嫌だ。
「俺に対してだけ。だけどな……」
「何が?」
「いや。何でもない」
あぶねー。口に出しちゃってた。
「来月に塩田の誕生日があるだろ? 誕生日会を開くから計画を立てろとさ」
「さくみの誕生日か。誰がそれ言ったの?」
「え? 佐々木だけど?」
「そう……」
「さくみが喜びそうなこととか、好きなもの調べて。私は場所とか確保するから」
なんか淡々としているな。
最近の白石は俺といると不機嫌だ。
俺のことを避けているような気がする。
その理由は分からない。
けど。これだけは伝えておかないといけない気がした。
「俺は過去に親友を殺している……」
「なにそれ?」
当然の反応だな。
落合や佐々木との反応と一緒だ。
ぷいっとそっぽ向いて白石は店を出てしまった。
●
ユイの親友は私だけじゃないの?
なんで過去に親友がいるの?
なんでゆかりちゃんと仲良くしてるの?
なんでさくみのことを考えてるの?
この気持ちは何なの?
ユイ……好きだよ……嫌われたくないよ……
私は――
好きな人の前だとかっこわるくなる私が大嫌い……
●
「なぁーはるとー! 俺たち親友だよな?」
「昨日しげが言ってたからそうじゃね? 俺たちは親友だぜ! だろ?」
「真似すんなよー! 俺。さくらちゃんが好きだ」
「さくらちゃん? あぁ、吉岡?」
「はるとだから言ったんだからな?」
「秘密にしておくよ」
「それだけじゃねーよ」
「あん?」
「さくらちゃんを取るなよ?」
「俺が好きなのはコンだから安心しろよ」
「またそれかよー。誰だよコンってー」
「大切な幼なじみだよ。守るって約束したんだ」
「はるとはいいよなー。俺にない物を何でも持ってるんだから」
「なに言ってるんだよ」
「ホントだろ? 羨ましいよ。クラスの人気者で頭も良くて運動もできて……きっとさくらちゃんも……」
「しげにはいいところたくさんあるぜ? 吉岡も絶対そのことを知ってるさ」
「はるとにそう言われたら自信が持てる」
「けどよ。もしもさくらちゃんがはるとのことを好きで、さくらちゃんがはるとに告白したら絶対に泣かすなよ?」
ここで俺は目が覚めた。
夢だと気がつくのにしばらくの時間が必要だった。
夢の全部を覚えているわけではないが、
「親友は、しげ?……」
頭が割れそうに痛む。
俺はしげと約束をした……
なのに――
「何でだよはると! 泣かせないって約束しただろ? はるとは俺が持っていない物を全部持っているのに!」
頭の中にしげの言葉が鳴り響く。
この裏切者!
