子供は残酷だ。
悪気が無くても悪意が無くても悪意がある言葉を平気で言う。
「かおるちゃんは可愛いから嫌い」
私が幼い頃に言われた言葉だ。
理由なんてない。
ただ、可愛いのが罪になったんだ。
誰かの好きな人が私のことを好きになったんだとか言ってた。
当たり前だけど、自分のことを可愛いとかモテるとか自覚したことはない。
けど、大人たちがよく言っていた言葉なら今でも覚えている。
「かおるちゃんは本当に可愛いね」
「こりゃあ美人さんになるぞ」
「将来は安泰だ」
別にその言葉を鵜呑みにしたこともないし、幼い私には意味の半分も分からなかった。
けど、私にはたくさんの敵がいたことは理解できた。
幼い私には、その敵の懐柔方法がわからなかった。
だから私はずっと笑うことにした。
そしたらもっと敵が増えた。
「白石かおる? すっげー名前だな」
は? 意味が分からない。
何で名前を褒められるの?
「確かに色は白いけど石みたいにゴツゴツはしてないよな?」
いや。名前は自分でつけたわけじゃないし。
「匂いも何もしない。あー、でもなんかいい匂いするかも」
え? 初対面でこれは気持ち悪いかも。
幼いながらも私は、ユイのことを気持ち悪いと思った。
でもユイは他の人とは違った。
私のことを全部見てくれて、いつしかユイは私の全てになった……
●
長くて黒い髪が自慢だった――
「おい。お前か? 俺の弟を誘惑してる女は」
小学生高学年の男子がイチャモンをつけてきた。
「ゆうわく? 私は何もしてないけど?」
「ふざけるな! 弟がお前のことが気になって友達との遊びに集中できないって言ってるんだぞ!」
長くて黒い髪が自慢だった。
その小学生は、有無を言わさず私の自慢を切り落とした。
「これでお前は男だ! 弟を惑わすこともない」
高笑いしてその小学生は立ち去って行った。
「へー。髪切ったんだ?」
思い出したくもないのに、ユイは平然と私に言った。
「切ったんじゃなくて切られたの」
「知ってるか白石」
この男は、私に泣かせる暇も与えてくれない。
「泣くのは弱者だ」
「じゃくしゃ?」
「あぁ。弱い奴だ」
「泣かないやつは強いやつだ」
「じゃあ私はじゃくしゃだよ」
「バカだなぁ。男は強いんだぜ?」
「男になれば泣かないですむの?」
「当たり前だろ?」
「じゃあ私、男になる!」
「よし! これからは白石は男だ!」
あの日から私はユイの前ではずっと男でいた……
●
俺は全然覚えていなかった。
けど、確実にコンにとって俺は救世主になっていて、俺の言葉が全てになっていた。
幼ければ幼い程にそれは当たり前になる。
「あの日からコンはユイの男友達としてずっと接していたよ?」
手を握ったままコンは、真っすぐ見つめてくる。
「ここは――」
俺が口にするとコンは、握る手を強めた。
口にするのは簡単で、覚悟するのは難しい。
「コンとユイだけの場所だ」
「誰にも教えないわけでも、誰にも言わないわけでもなくて。コンとユイの思い出がたくさんある場所だから、秘密基地なんだよ? 思い出した?」
目から涙が零れ落ちた。
俺は何でこんな大切なことを忘れていたんだろう……
「思い出してくれてありがとね?」
「そういえばコンも忘れてるよな?」
「え? 何を?」
「タイムカプセル。埋めただろ?」
「ほんと覚えてないんだよねー」
「神社近くの川で花火見たのは覚えてるだろ?」
「見た見た! その時のコンはもう髪の毛短くなかったんだよねー」
「コンが髪の毛短くしてたのって、そんな長い間じゃないよな」
「だってすぐにユイが守ってくれるって言ってくれたから」
「そんなこと言ったか?」
「言ったよ。これからもずっと一緒に花火見ようねとも言ってくれた」
「小さい頃の俺は恥ずかしいセリフをスラスラと言ってたんだなー」
「今も言ってくれていいんだよ?」
「もうコンが男のフリをする必要もなくなったし、言わなくて平気だろ?」
「ユイが守ってくれるならね」
ふふふ。とコンが寝転んだまま顔をこちらに向ける。
距離が近い。
あと数センチで口と口が触れてしまう――
風の音がうるさい。
けど、それ以上に心臓がうるさかった。
コンはそっと目を閉じる。
これはきっと――
そう思った瞬間に、
ゴロン。とコンは反対側を向いてしまった。
あの唇は近そうで遠いな……
コンがボソリと呟いた言葉を俺は、聞こえないフリをした。
昔は簡単にできたのに……
