「おーし。んじゃタイムカプセル埋めに行きますかー」
電車から降りた落合が伸びをしながら言う。
懐かしい道のりを歩きながら俺は、白石の顔を盗み見たがその表情からは何も読み取れなかった。
昨日のあの出来事が嘘のようだ。
おそらく原因は俺の隣だろう。
ルンルン気分の吉岡がいる。
「私もタイムカプセルを入れたんだから参加するのは当然でしょ?」
これが吉岡の言い分だ。
ピンクの缶には、俺の写真がどっさりと入っていた。
これ見よがしに、みんなの目の前で入れていた。
「代わりに私たちが入れてあげるって言ったのに」
「あら? 白石さん居たの? 私の存在感が強すぎて気がつかなかったわ」
相変わらず仲悪いなこの2人。
「大丈夫か?」
落合が塩田に声をかけている。
「何が?」
何かあるのかと思ったが、塩田はキョトンとしている。
「いや。缶に入れる中身決めたんだなって思って」
「うん! とってもいい物」
にこりと塩田が笑う。
よっぽどいい物なんだな。
「頑張ったな」
どこか落合が寂しそうだな……
●
「おい落合?」
「あん?」
「お前、体調悪いのか?」
「悪くねーよ?」
「本当か?」
「本当だよ。俺はいつも通りだから気にすんな」
まぁ本人がそう言うなら、これ以上は何も言えないけど……
「どうしたの?」
佐々木が俺の近くに来る。
「いや。なんか落合の様子が変というか、いつもと違う感じがしたから……」
「へー。ちゃんと周りを見れるようになったんだ?」
「は? どういう意味だ?」
「心に余裕ができたんだね」
にこりと微笑まれるが、言っている意味がよくわからん。
「ま。とりあえずキミは落合のことは気にしなくてよろしい」
ポン。と背中を叩かれたけど、なんだか素直に喜べない。
●
川辺の一箇所に俺たちは着いた。
落合が事前に自治体とかに許可を取っていたというのだから、頭が上がらない。
「なんだか落合が完璧人間に見えてきた」
「実際よくやってくれてるよね?」
塩田が曖昧な笑い方をする。
珍しい。
「? 何かあったのか?」
「何かって?」
「塩田がそういう言い方をするの珍しいから」
「んー。素直に喜べないだけかな? 落合くんっていっつも私のことからかってくるし」
そういえばそんなことを言っていたな。
「からかわれる理由ってなんなの?」
「知らないよそんなの。私が小さいからじゃない?」
確かに塩田の背は低いけど、そんなことでからかうもんなのか?
「とにかくいつもからかってくるから、素直に喜べないの」
確かに落合って、おちゃらけキャラというか人のことを茶化すことが多いよな。
「ところで朝倉くんはタイムカプセルに何を入れたの?」
「あぁ。俺は昔よくやっていたゲームを入れたんだ」
そう言って白石を視界の端で、盗み見たがその表情に変わりは無かった。
俺の言葉が聞こえなかったのか、それとも気にしていないのかは分からないが。
「そういう塩田はどうなんだ?」
「私? 私はマフラーを入れたよ」
「マフラー? 何で?」
「もう使わないからねー」
「まだ使える物なのか?」
「だねー。ただもう必要ないだけ」
なんだかそう言う塩田の顔が寂しそうに見えた。
「勿体ないなー」
「もしも私がマフラーを渡したら受け取ってくれた?」
「そりゃあ受け取らない理由がないよ」
「そうだったんだ……」
●
俺は、穴を掘る手を止めた。
一瞬。
心残りが出てきた。
もうあの、ユイって名前を付けたゲームは出来なくなるのか……
そういえば、あのゲームのこと白石にまだ聞いてなかったな。
俺は――
知らないことだらけだ。
そう思って辺りを見渡すと、俺と同じようにみんなの手が止まっていた。
みんなそれぞれに思うところがあるのか……
落合はみんなとの写真。
佐々木は文化祭の出し物。
吉岡は俺の写真。
塩田はマフラー。
白石は何を入れたんだろう……
そう思って白石を見ると、目が合った。
「内緒」
そう言われた気がした。
●
「ゲーム埋めたんだ?」
埋め終わると白石が声をかけてきた。
「聞いてたのか」
「聞こえちゃったの」
「絶対聞いてただろ」
「何で私のこと疑うかなー?」
白石はみんなの前だから、これでもセーブしてるのが分かる。
「今度。俺たちだけのタイムカプセルを開けに行かないか?」
白石が口を開くその瞬間――
「おいおい痴話げんかはよせよ?」
落合が茶化してくる。
「ちょっと! はる様の隣を取らないでくださる?」
俺と白石の間に吉岡が無理やり入り込もうとしてくる。
「あーら吉岡さん。いたの?」
あ。これは朝の仕返しだ。
「来年はさ」
塩田がそっと声をかけてくる。
「ん?」
「マフラー編んであげる」
頬を染めながらそう言って笑顔を見せる塩田の表情が。
俺にはとても寂しそうに見えた。
「もうすっかり寒いし、帰りにマフラーでも買おうかな」
俺と塩田の話しを聞いていたのか、落合が茶化してくる。
「もぅ! 落合くんにはクリスマスプレゼントあげないから!」
「なに! 頼む! 俺にもサンタさんしてくれ」
「気が向いたらね」
みんなが笑いながら2人のやり取りを見届けていた。
夕陽が川に反射して、俺たちを映す。
俺はきっと。
大人になってもこの光景を忘れないだろうな――
