「見てユイ! この溝何だか分かる?」
「あー。確か小さな川が流れた?」
「そう! あの頃の私たちには大きな川に見えたのに、高校生になって見ると小さいんだね」
「……この小川に俺たち何か流さなかったか? 確か折り紙で作った船とかそんなの」
「よく覚えてるねー。コンが船の折り方を教えてあげたんだよ? いた!」
俺の方を見て前を見て歩かないからだ。
コンは躓いて転んだ。
「なぁコン」
コンを助け起こしながら俺が言う。
「その船さ、薄い紫の折り紙だけ何か書いてたよな?」
「え! 知らなーい」
「嘘つけ! 絶対なんか書いてた!」
「ユイの勘違いじゃない? コンは何にも書いてないもーん」
また転んだ。
コンはこういうところがあった。
完璧に見えてどこか抜けてる。
いや――
「コンって、ほんと天然だよな」
そう。
本当のコンは全然完璧じゃないし、むしろ抜けてて誰かを守れるような人じゃなくて、守られる側だ。
そんなコンが守る側に必死に変わってるのはきっと俺のせい……
「むぅ。ユイのくせにコンをバカにするでない」
なんだそのキャラは。
「無理するな。お前の傍には俺がいる」
コンの頭に手を置く。
「ユイが約束を全部思い出したら無理するの辞める」
ぷーっとふくれっ面を見せる。
「は? 約束?」
「ふんだ! ユイはいつだってそう! 高校でコンと再会してからずっとずっとずっと」
ポカポカポカ。と叩いてくる。
ほんと、コンってこういう子供みたいなところあるよな。
「ここ! コンとユイだけの秘密基地」
草原の奥のまばらに木が生えた場所。
どこか懐かしくて、何かがあった場所なのは分かる。
「ここ見つけたのって俺? それともコン?」
「えー! どっちだろー?」
「小さい頃の俺たちは、この草原が世界の全てだったよな」
「うん! 遊ぶ場所も物も相手もいなくて、ユイとコンが世界の中心でユイとコンしか世界にいなかった」
ニパッと笑うコンの顔は、幼い頃のあの笑顔と一緒だった。
「ユイ……」
コンが手を強く握りしめてくる。
「ここにあった秘密基地は、コンとユイの全てがあったんだよ?」
更に握る手が強くなる。
その手が震える。
●
「引っ越し?」
「うん……」
「何で? ユイとコンはずっと一緒って言ってたじゃん!」
「仕方ないんだよ……」
「そんなのわかんない! ユイはコンとの約束を破るの?」
「破らない!」
「嘘だ!」
「嘘じゃない! 俺がコンに一度でも嘘をついたことがあるか?」
「じゃあ。コンの傍に居てよ……死ぬまでずっと一緒に居てよ……」
「約束する。大きくなったらコンのことを探して迎えに来る! コンとユイの名前に誓う!」
「言葉だけじゃやだ!」
「コン。俺はこれからも今までもずっとコンだけだ」
●
思い出した。
俺とコンはこの秘密基地でずっと一緒に居る約束をした。
いや。それだけじゃない。口づけもした。
「お……俺とコンは……その……」
俺は絶対に今、顔が赤くなってる。
「何でそういうことだけ思い出してそういうことだけ言うの?」
コンの頬も赤くなる。
「いや。たまたま思い出しただけで、他のことも思い出してるって」
「ならそのこと言えばいいじゃん! なんでそういうこと言うかなー。本当にユイはデリカシーがないんだからー」
「あのなぁ。俺は違うことだって言おうとしてたんだぞ? ちょっとは俺の話しも聞いたらどうなんだ?」
「だったら余計なこと言わないで、コンにとっていいことだけ言えばいいじゃん」
「だから話しの流れだろ? 相変わらず俺の話しを聞かないなー」
「何それ! コンが悪いの?」
「いや。悪いとかじゃなくて俺の話しも聞いてくれってこ」
ここで俺は言葉を止めた。
急にコンが泣き出したからだ。
昔にも似たようなことはあった。
よく口喧嘩して、負けそうになるとコンは泣いた。
「分かったよ」
俺だけが使える魔法の言葉だ。
「今回は俺の負けにしてやるから」
こう言うとコンはいつも笑顔を見せて、全てを許してくれた。
「ユイー!」
小さい頃は抱きついてきたが、さすがに抱きついてはこなかった。
これだけで俺とコンは友達に戻れた。
●
「ねぇユイ」
以前秘密基地があっただろう場所にコンが寝転んで言う。
「ん?」
その隣で俺の寝転ぶ。
「前にもあったよね。こういうこと」
「あぁ。いっつも俺が負けてた」
「ユイがコンに勝てるわけないでしょ?」
「でもいっつも俺が助けてたよな?」
「なんでそういうことは覚えてるかなー」
「コンとのことなら何でも思い出せそうだし、どんなことでも受け入れられる気がするな」
「へー。ユイ変わったね。いい意味で。それじゃあコンに聞きたいことは何?」
コンが俺の手を握ったまま真っすぐにこちらを見てくる。
今なら俺は何でも受け入れられる気がする。
「この草原……秘密基地に男の子いなかったか?」
俺がずっと気になっていたことを聞くと、コンは一瞬言葉に詰まった様子を見せた。
それからゆっくり口を開いた。
「その子はコンだよ……そしてユイが体験した小学生時代とは何の関係もないよ?」
あの綺麗な顔立ちの少年がコンで、しげとかとは全く無関係だと?
俺は益々こんがらがる頭をフル回転させて、コンの話しをしっかりと聞くことにした。
