君だけが俺をユイと呼ぶ~第44話 秘密基地~

君だけが俺をユイと呼ぶ

「見てユイ! この溝何だか分かる?」
「あー。確か小さな川が流れた?」
「そう! あの頃の私たちには大きな川に見えたのに、高校生になって見ると小さいんだね」
「……この小川に俺たち何か流さなかったか? 確か折り紙で作った船とかそんなの」
「よく覚えてるねー。コンが船の折り方を教えてあげたんだよ? いた!」
 俺の方を見て前を見て歩かないからだ。
 コンは躓いて転んだ。
「なぁコン」
 コンを助け起こしながら俺が言う。
「その船さ、薄い紫の折り紙だけ何か書いてたよな?」
「え! 知らなーい」
「嘘つけ! 絶対なんか書いてた!」
「ユイの勘違いじゃない? コンは何にも書いてないもーん」
 また転んだ。
 コンはこういうところがあった。
 完璧に見えてどこか抜けてる。
 いや――
「コンって、ほんと天然だよな」
 そう。
 本当のコンは全然完璧じゃないし、むしろ抜けてて誰かを守れるような人じゃなくて、守られる側だ。
 そんなコンが守る側に必死に変わってるのはきっと俺のせい……
「むぅ。ユイのくせにコンをバカにするでない」
 なんだそのキャラは。
「無理するな。お前の傍には俺がいる」
 コンの頭に手を置く。
「ユイが約束を全部思い出したら無理するの辞める」
 ぷーっとふくれっ面を見せる。
「は? 約束?」
「ふんだ! ユイはいつだってそう! 高校でコンと再会してからずっとずっとずっと」
 ポカポカポカ。と叩いてくる。
 ほんと、コンってこういう子供みたいなところあるよな。

「ここ! コンとユイだけの秘密基地」
 草原の奥のまばらに木が生えた場所。
 どこか懐かしくて、何かがあった場所なのは分かる。
「ここ見つけたのって俺? それともコン?」
「えー! どっちだろー?」
「小さい頃の俺たちは、この草原が世界の全てだったよな」
「うん! 遊ぶ場所も物も相手もいなくて、ユイとコンが世界の中心でユイとコンしか世界にいなかった」
 ニパッと笑うコンの顔は、幼い頃のあの笑顔と一緒だった。
「ユイ……」
 コンが手を強く握りしめてくる。
「ここにあった秘密基地は、コンとユイの全てがあったんだよ?」
 更に握る手が強くなる。
 その手が震える。

 ●

「引っ越し?」
「うん……」
「何で? ユイとコンはずっと一緒って言ってたじゃん!」
「仕方ないんだよ……」
「そんなのわかんない! ユイはコンとの約束を破るの?」
「破らない!」
「嘘だ!」
「嘘じゃない! 俺がコンに一度でも嘘をついたことがあるか?」
「じゃあ。コンの傍に居てよ……死ぬまでずっと一緒に居てよ……」
「約束する。大きくなったらコンのことを探して迎えに来る! コンとユイの名前に誓う!」
「言葉だけじゃやだ!」
「コン。俺はこれからも今までもずっとコンだけだ」

 ●

 思い出した。
 俺とコンはこの秘密基地でずっと一緒に居る約束をした。
 いや。それだけじゃない。口づけもした。

「お……俺とコンは……その……」
 俺は絶対に今、顔が赤くなってる。
「何でそういうことだけ思い出してそういうことだけ言うの?」
 コンの頬も赤くなる。
「いや。たまたま思い出しただけで、他のことも思い出してるって」
「ならそのこと言えばいいじゃん! なんでそういうこと言うかなー。本当にユイはデリカシーがないんだからー」
「あのなぁ。俺は違うことだって言おうとしてたんだぞ? ちょっとは俺の話しも聞いたらどうなんだ?」
「だったら余計なこと言わないで、コンにとっていいことだけ言えばいいじゃん」
「だから話しの流れだろ? 相変わらず俺の話しを聞かないなー」
「何それ! コンが悪いの?」
「いや。悪いとかじゃなくて俺の話しも聞いてくれってこ」
 ここで俺は言葉を止めた。
 急にコンが泣き出したからだ。
 昔にも似たようなことはあった。
 よく口喧嘩して、負けそうになるとコンは泣いた。
「分かったよ」
 俺だけが使える魔法の言葉だ。
「今回は俺の負けにしてやるから」
 こう言うとコンはいつも笑顔を見せて、全てを許してくれた。
「ユイー!」
 小さい頃は抱きついてきたが、さすがに抱きついてはこなかった。
 これだけで俺とコンは友達に戻れた。

 ●

「ねぇユイ」
 以前秘密基地があっただろう場所にコンが寝転んで言う。
「ん?」
 その隣で俺の寝転ぶ。
「前にもあったよね。こういうこと」
「あぁ。いっつも俺が負けてた」
「ユイがコンに勝てるわけないでしょ?」
「でもいっつも俺が助けてたよな?」
「なんでそういうことは覚えてるかなー」
「コンとのことなら何でも思い出せそうだし、どんなことでも受け入れられる気がするな」
「へー。ユイ変わったね。いい意味で。それじゃあコンに聞きたいことは何?」
 コンが俺の手を握ったまま真っすぐにこちらを見てくる。
 今なら俺は何でも受け入れられる気がする。
「この草原……秘密基地に男の子いなかったか?」
 俺がずっと気になっていたことを聞くと、コンは一瞬言葉に詰まった様子を見せた。
 それからゆっくり口を開いた。
「その子はコンだよ……そしてユイが体験した小学生時代とは何の関係もないよ?」
 あの綺麗な顔立ちの少年がコンで、しげとかとは全く無関係だと?

 俺は益々こんがらがる頭をフル回転させて、コンの話しをしっかりと聞くことにした。

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