勇者は発情中~第三十七エロ 恐怖のデスキング~

勇者は発情中

「じゃあ早速デスキングの元に案内してもらおうか?」

 もふともの反対意見がなくなったことで、全員の意見が一致したと判断したティーパンが、すくっと立ち上がる。

 お願いしている立場ではあるが、その言い方はきっぱりとしており、断れないような空気を纏っていた。

 時折ティーパンは、こんな感じの雰囲気を醸し出すことがある。

 そんなことを助態は考えながら立ち上がるティーパンを見上げた。

 元々ティーパンの背は高い上にサンバのような恰好をしている。

 小さくなった時の助態もチャレンジしたが、ティーパンのパンツや胸を覗いてみたい衝動に駆られた。

 しかし――

「ん? なんか用かい?」

 ジロリと探るような視線をティーパンにぶつけられてしまう。

 覗きなんてしたらきっと殺される。

 そう感じる視線だった。

「い、いや。なんでもないです」

 慌てて目をそらしながら言うのもいつものことだ。

 その様子を見てくびちとアンアンがやれやれと首を左右に振った。

「案内するのはいいですが、さっきも言ったようにデスキングに会えるのは男性だけですよ?」

 それでもいいのかと、ヌルヌルが訊ねるとティーパンが問題ない。と即答した。

「何かあっても勇者が一人で対処する」

 ポンと助態の肩に手を置いて勝手に決めてしまった。

 驚いて助態がティーパンを見ると、な? と威圧的な雰囲気で言われてしまった。

「は、はい……」

 仕方なしに頷くのもいつものことだった。

 今いる場所以外すべての事がいつもの光景だった。

 しかしこのいつもの光景、当たり前の光景は当たり前ではなかった。

 些細なことで崩れてしまうことを助態たちは思い知ることとなるのだった――

 ●

 助態たちはデスキングの元へ向かうことにした。

 デスキングは男にしか会わないと知ってはいるが、とりあえずはデスキングの元までは全員で向かうことにした。

 道中襲ってくるモンスターのような存在はないとヌルヌルは言っていたが、それでも全く危険がないわけではない。

「特に危険なのが、生前人間に恨みを持っていた生物がこの世界で徘徊していて、俺たちと遭遇した場合ですね」

 助態たちが落っこちて来た都市から出て、街道を歩いている道中ヌルヌルが言う。

「それが元モンスターだったら厄介ってことか」

 ヌルヌルの話を聞いてティーパンが言うと、助態に背負られているちあもそうじゃな。と頷いた。

 眠そうなところを見ると時間は夜なのだろう。

 街中だけでなく、街道も時間の経過が分からない。夕暮れのようなオレンジ色の空しかこの世界にはないようだ。

 天気の変化もなさそうだった。

「夜……と言いますか、休憩中は私たちの世界ほどしっかりと見張りをしなくても明るいから平気そうですね」

 純純が隣のルブマに言うと、その言葉を後ろで聞いていたティーパンが油断は禁物だぞ。と注意を促した。

「まぁこれだけ明るいと気が抜けるのも頷けるがの」

 ふわぁ~。とあくびをしながらちあが言う。

「ねぇ。今夜なんじゃないかしら?」

 眠そうにしているちあを見てくびちが言う。休憩を促しているのだ。

「デスキングの元まではまだあるので、少し休憩しましょう」

 ヌルヌルがくびちの言葉を受けて休息を提案した。

 死の国で初めての野営が始まる――

 ●

 翌朝――

 結論から言えば夜襲はなかった。

 夜は何事もなく無事に過ごせた。

 しかし、朝になり目覚めてみると異変に気がついた。

 もふともが居なかったのだ。

 きっかけは全員が思い当たる。夕食での会話だろう。

「いつも通りだと思ったんだけどな……」

 助態が呟くのも無理はない。

 野営の準備を終えてご飯を食べている時のもふともは、普通そのものだったのだ。

 あの男っぽいややがさつな性格そのもの。

 助態はいつも通りの当たり前の光景だと思っていた。

 いや、思い込んでいた。

「いつも通りなんて、ちょっとしたことで消え去るものさ。勇者が元いた世界ではどうかは知らないけれど、特にこの世界ではモンスターがいるんだからね」

 戦闘と常に隣り合わせの状況では、当たり前なんてことはない。ティーパンはそう言いたかったのだろう。

 夕食の時、とある人物が助態たちの前に現れた。

 本人も生きたままこの世界にやって来たと言っていたが、それをすんなり信じるほど助態たちは純粋ではない。

「お前は生きた人間なのに、死んだ者のことを聞くのか? 本当にこの世界から抜けられるとでも? 俺も生きた人間だ。この世界に大切な人を残してしまった。お前たちが俺と同じ立場ならばこの球を使うといい。大切な人と共に過ごせる方法を球が教えてくれる」

 そう言って、水色の水晶玉のような球体を渡してきた。

「あの。あなたはこれからどうするのですか?」

 球を受け取った純純が訊ねると、その男性は大切な人と過ごせる方法を教えてもらったからその通りに生きる。と言って去って行ってしまった。

 そんな怪しい言葉を信用する者がいるなんて誰も思わなかった。

 しかしもふともは信じてしまったのだろう。

 朝起きたら球と共に姿を消していたのだ。

「あんな言葉を鵜呑みにするとは思えないけど」

 と助態が言うと、ティーパンが首を振った。

「どんな形でもいい。何かにすがりたかったんだろうねぇ」

 そう言ってヌルヌルを見据えた。

 ヌルヌルは何と言っていいのか分からず気まずさから目をそらした。

 嫌な空気が全員を包んだ。

 ●

「そっち行ったぞ!」

 ティーパンの鋭い声が静けさを破った。

 あの後すぐに助態たちは、これが人間に恨みを持つモンスターの仕業だと考えて、もふともの捜索を開始した。

 人間に成りすましたモンスターだろうと考えたティーパンが提案したのは、モンスターそのものを探すのではなく、あの球を探すということだった。

 それからは探索に向いている犬型のモンスター、ファインドックを召喚してすぐに球を見つけた。

「こいつは不思議なモンスターでな。戦闘能力は無いに等しいんだけど、私が見た物の記憶を共有してあっさりとそれを見つけることができるんだ」

 もちろん確実じゃないけど、その確率はかなり高い。とティーパンが付け足した。

 つまり、ティーパンから逃げるのは至難の業ということだ。

 ファインドックによってすぐに球が見つかり、それを持っていたモンスターを追い詰めたところだ。

 逃げようとしたモンスターが向かった先には、助態がいた。

 先ほどのティーパンの鋭い声は、助態に向けられたものだ。

 逃げたモンスターは、矢印のような形をした2本の触角が黄色くて丸い頭から生えていた。

 胴体も丸くて黄色く、手足も丸くて黄色い。

「全身が黄色って、夕陽に映えて見えにくいわね」

 くびちが隣の助態に注意する。

 助態はヌルヌルから借りた細くて軽めの剣で、黄色いモンスターに切りかかる。

 しかしこのモンスター、見た目とは裏腹に意外と強いことが分かる。

 それは、ティーパンの追撃を避けたり、今も助態の攻撃を簡単に避けて鋭い牙で反撃をする仕草も見せる。(「危ない!」というヌルヌルの注意で間一髪避けれたが。)

「スピードが尋常じゃないのじゃ」

 ちあが得意とする魔法を使えないのも、攻撃すべき対象が速すぎて対象を絞れないためだ。

「さすがの幼き天才も敵が速すぎると困るようだねぇ」

 大刀を振り回しながらティーパンが横目でちあを見る。

 隣の助態に言ったのは、なんとかモンスターの動きを止めろということだ。

「やってみます」

 そう言って再び細くて軽い剣を構えてモンスターの元へと走る。

 それを見てくびちとぱいおが補助に走った。

 モンスターが避けそうな地点で純純とルブマとヌルヌルが立ちはだかり、ルブマは弓をヌルヌルは剣構えた。

 純純は捕まえるのに便利そうなアイテム、這い縄を地面にセットした。

 これによって、対象が縄に触れると縄が対象者へと絡みつくようになる。

 つまり助態とくびちとぱいおは、この縄の元へとモンスターを誘導すればいい。

「私が突風で突き飛ばすからあなたは盾ごとタックルしてちょうだい」

 くびちは隣のぱいおに指示すると、返事も聞かずに風魔術レベル3の突風を使った。

「え、ちょっ。くびちさん?」

 ぱいおは戸惑いながらも我慢を使ってある程度の攻撃に耐えられるようにし、意表をついた突風で体勢がやや崩れたモンスターにそのまま突進した。

 作戦通りモンスターは突き飛ばされ、這い縄に触れた。

 縄がモンスターの動きを封じるように絡みだし、モンスターはそれを振りほどこうともがいた。

 助態、ヌルヌル、ルブマの3人は振りほどかれないようにそれぞれの武器で邪魔をした。

「創生の炎、神聖なる水、爆ぜて混ざり合え!ことごとく灰に帰す!暗黒之炎(ダークフレア)!」

 ちあの魔法が炸裂した。

「燻る火種が大きくなる時、風の中より目覚めん」

 ティーパンが更にサラマンダーを召喚した。

 暗黒之炎(ダークフレア)とサラマンダーの炎がモンスターに直撃した。

「凄まじい攻撃だ……」

 モンスターが黒煙の中から声をかける。

「あれだけの攻撃を受けて無傷なのか?」

 助態が絶句する。

 黒煙から出てきたモンスターは、全身が黄色いビリビリしたもので覆われていた。

「なんだあれは?」

 ヌルヌルは初めて見たようだが、助態たちはかつて一度だけ見たことがある。

 しかしそんなことがありうるのだろうか?

 あれは――

「悪魔魔法だと?」

 ティーパンが驚くのも無理はない。

 悪魔魔法を使うということは、悪魔の使いレベルの強敵だということだ。

「それに、話せるということはそれだけ知能が高いということじゃ」

 ちあが指摘するようにモンスターの知能はとても高いようだ。

「悪魔の使いが言葉を話せるのかどうかは知らないけれど、こいつが悪魔の使いではなさそうなのは私の勘違いかい?」

 ちあの指摘を受けてティーパンが言う。

 つまり、目の前のモンスターは悪魔の使いではない可能性が高いということだ。

 問題なのは、電磁壁(エレクトロマジネティックウォール)を使用されるとほとんどの攻撃が通じなくなる点だ。

「あれ、どうやって崩しますか?」

 助態が隣のティーパンに問うが、ティーパンにもその回答は見いだせていない。

「気をつけるのじゃ!」

 ちあの鋭い声がかかる。

 次の瞬間、つい今しがたまで助態とティーパンがいた場所を突風が吹き抜けて行った。

 その突風が通った跡には、何やら無数の切り傷が残されていた。

「硝子の嵐(グラスストーム)だね。一直線上に突風を拭き起こして、その風に触れたものを切り刻む悪魔魔法だ」

 ティーパンの説明を聞いて助態が生唾を飲む。

「こんなやつ、どうやって倒せばいいんだよ……」

 ヌルヌルが諦めかけた時、

「そんなことはどうでもいい!」

 背後より凄みのある声がした。

 次の瞬間、黄色いモンスターは真っ二つに切り倒されていた。

「デ……デスキング様!」

 ヌルヌルが叫んだ。

 ●

 デスキングは、全身筋肉お化けで牛のような角を生やし、なぜか上半身は裸の男だった。

 黄色いモンスターを倒した理由は、何やら死の国で暴れている者がいるという通報を受けたためだったらしい。

「ワシはデスキング。この国、いやこの世界の安泰を守っておる。お主らは何故この地で暴れておった?」

 もふともは、モンスターがやられた瞬間に球から出てきて無事だった。

 その様子を見ていたデスキングには、ほとんどの成り行きが分かっているようにも見える。

 それでも問いかけるのは、助態たちが嘘偽りなく話すかどうかを確かめているのだろう。

「俺たちは――」

 それを感じ取った助態は、包み隠さず正確に話すことにした。

 この世界へ来てしまった理由からヌルヌルと出会ったことや、もふともとヌルヌルの関係まで全てを。

「なるほどの。それでこの世界を抜け出す方法を聞くためにワシに会いに来たというわけじゃな?」

 ギロリと助態を睨む。

「え、あ、はい……」

 後ずさりをしながら。助態が答えると、急にデスキングの表情がほころんだ。

「では早速ワシの城に来るがいい。ワシは一足先に戻ってきちんと出迎える準備をしておく。ワシの城は、この道を真っすぐ進んだ先にある。知っているとは思うがワシの城は男のみ入城が許されておる。それがルールじゃ。男以外は街で待っておるのじゃ」

 それだけ言うとデスキングは踵を返して、城へと大股で帰って行った。

 助態たちは、最初の街に戻ってご飯屋で再び会議を開いた。

「私たちが苦戦したあのモンスターを一撃で倒すほどの腕前……さすがに勇者単身で行かせるのは危険か」

 ふーむとティーパンが悩む。

 もふともは、自分がしでかしてしまったことを反省して何も言わないが、ティーパンがデスキングの元へ行くことを諦めようとすると、その表情は明るくなっていた。

 しかし助態の次の言葉でもふともの安堵の表情はまた崩れた。

「俺、行きますよ」

「で、でも助態!」

 何かを言いかけたもふともを制止したのはヌルヌルだった。

「君が信頼している人なんだろ? 信用しなきゃ」

 この言葉でもふともも納得したようだ。

「まぁ、君がそう言うならば何も言わないけど用心はしておくんだよ?」

 ティーパンが釘を刺す。

 とはいえ、ティーパンも何か危害を加えるならば出会った時に攻撃を仕掛けていただろうと考えており、最低限の安全は保障されていると考えているようだった。

「俺も一緒に行くよ。この世界のことに一番詳しいしね」

 にこりとヌルヌルが微笑む。

 こうして助態とヌルヌルはデスキングが住む城、デスキングキャッスルへと2人で向かうことになった。

 待ち受けるのは、ティーパンやちあよりも圧倒的に戦闘力が高いデスキングだ。

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