異世界転生しか勝たん~第二十七稿 クレソンの計画~

異世界転生しか勝たん

「終わりですかね……」

 私とパクチー君は沼に囲まれながら前方からの針の攻撃に備えている。

 上空の大岩はちょっとどうしようもない気がする……

 そんな私たちの様子を見てシーナルは優雅に紅茶を淹れ始めた。

 食器棚から紅茶のカップとポット、ヤカンにソーサーを取り出しているけど、あれ全部掌具や握器なんだよね?

 あいつ掌具や握器でお茶してたのかよ……

「上の岩は俺に任せろ。お前は前の針に集中しろ」

 手の爪を伸ばしてるからあれで岩を砕くつもりかな?

 私は盾で全ての針を防いでみせるから、パクチー君上は頼んだよ!

「ぐ……くくく……」

 思わず声が口から漏れる。

 パクチー君は私の陰に隠れながら上から降ってくる大岩を破壊するために力を溜めている。

 とはいえ私の陰から飛び出すと針攻撃を受ける可能性があるから、ギリギリまで大岩は壊せないね……

「おや? 針を全て防ぎましたか……勇者が持つ伝説の盾の力ですか……」

 やれやれとシーナルが首を振る。

 さらにパクチー君が2、3個の大岩を破壊したのを見てシーナルは更に落胆する。

「この手順で倒せなかったのは、貴方たちが初めてですよ」

 シーナルが沼の掌具を解除したことで、私たちは自由に動けるようになった。

「困りましたね……私はこの手順で貴方たちを倒せると思っていたので、他の掌具も握器もたいした物はありません……仕方がありませんね。ここは退くとしましょう。ですが貴方たちがここの前線を押し上げていることは上に報告させていただきます。ケルベルス部隊かもしくはそれ相応の力のある者がこの地に派遣されることでしょう。注意することです」

 くるりと背を向けて、行きますよ。とシカカとラクサに声をかけてシーナルは立ち去った。

 私もパクチー君も呆然と立ち尽くすしかなかった。

「あいつ……まだ余裕があったのに……」

「この俺を見逃しただと……」

 私たちは、シーナルの強さを実感した……

 ●

 私は一度砦まで下がった。

 体力的にも気力的にもちょっとしんどかったし、少し休みたかったからだ。

 パクチー君はと言うと、シーナルに見逃されたのが悔しかったのか、前線で暴れてどんどん前線を押し上げている。

 今ではこの砦から前線まではかなりの距離がある。

「だいぶ掌握軍の土地を解放したんじゃない?」

 バジルちゃんがなんだか威張ってる。

「このままだとここの砦もあまり意味を成さないんじゃない?」

 確かにバジルちゃんの言う通り、ここまで前線が押し上げられちゃってたらここの砦もあまり意味がない気がしてくる。

「ここまで力が突出してるとは思わなかったわ~。これなら掌握軍の拠点を奪っちゃう方が速いかもね~」

 クレソンちゃんがのほほんと言う。

 掌握軍の拠点とここの砦を結んじゃえば、そこまでのラインは私たちの領土ってことになるもんね。

 戦国時代とかの城を奪う感覚に似てるかもね。

「可能ならどこかの村とか街を解放したいね」

 と私がクレソンちゃんに言う。

「そうね。そうすればその村や街の人たちを戦力としてカウントできるもんね」

 さすがクレソンちゃん。私の意図をしっかりと理解してくれている。

 まぁパクチー君がはらいせとはいえ、とことん攻めてて攻めれてるなら問題はなさそうだし、今の内に領土を拡大するのはありかもしれないね。

「念のためにパクチーが出すぎないように注意しつつ、パクチーのところまで兵站をしっかりと繋げましょ」

 そう私が言って、バジルちゃんとルッコラ君はパクチー君のところまで走って行った。

 私はクレソンちゃんと一緒にとりあえずここの砦を強化することにした。

「ところでクレソン。なんか凄いこと思いついちゃったとか言ってたけどそれはもういいの?」

 そういえばと思い出して私が問うと、クレソンちゃんがにやりと笑った。

「ここの砦を強化してることでクレソンのその計画はどんどん実行されてるよ~」

 クレソンちゃんの計画とは一体なんなんだろ?

「もしも掌握軍の村とか拠点を奪うことができたら、もの凄く大きなものができるわよ~」

 目をキラキラさせてるよ。

 クレソンちゃんは一体何を考えているんだろう?

 そのうち分かるよ~。とか言いながらルンルンで砦の建設を進めてるし。何だか怖いよ。

 ●

 パクチーは掌握軍の前線を荒しに荒っていた。

「ちょっと止まりなさいよバンパイア!」

 バジルがキーキー言う。

「あ?」

 喧嘩口調で言われたことにパクチーがいら立つ。

 そんな2人を見てルッコラがあわあわしている。

「何しに来やがった」

 ちっと舌打ちを一緒に鳴らす。

「あんたが突っ走り過ぎてるから注意しに来たんでしょうが!」

「それと兵站を繋げに来たんだよー」

 バジルも負けず劣らず喧嘩腰で話す。

 そんな2人を見て、ルッコラが補足する。

「兵站? んなもん必要ねぇよ。こんだけ敵を壊滅させりゃ前線はボロボロだ。このまま敵の拠点を奪った方がいいだろ」

「確かにクレソンもそう言ってたけど、パセリの話しによるとその前にあんたが囲まれたら大変だからせめて兵站だけでも繋いであんたが出すぎないように見張れって言ってたのよ!」

 再びバジルがキーッと言う。

 パクチーは、フンと鼻を鳴らしながら好きにしろ。と言って再び前線を荒しに行った。

 それを見てバジルは、ちょっと待ちなさいよー! と追いかけて行った。

「あ、待ってよ~」

 うぇーんと泣きながらルッコラもその後を追いかける。

 しかし既にこの3人への包囲網が完成しつつあることを、3人は知らなかった――

 ●

「ねぇクレソン」

 砦の建設をしつつ私は、あちこち指示を出してるクレソンちゃんに声をかけた。

 どうも気になるからだ。

「なぁにー?」

 相変わらずのほほんとした口調で返事をするクレソンちゃん。

「そろそろ教えてよ。クレソンのそのもの凄い計画ってどんなのなの?」

「しょうがないなー。軍事拠点とこの拠点、そしてできれば敵の拠点や掌握軍から解放した町や村を全部結んで巨大な軍事都市を作るのよ」

 ニコリと微笑みながら恐ろしいことを言っている。

 それにしても軍事都市かぁー。考えてもみなかったけど、軍事拠点の都市化ってことでいいんだよね? きちんと人が住めるようにしつつあらゆる武器兵器の貯蔵庫、それらの製造所、兵士の駐屯を兼ね備えているって感じかな?

「それで、レタス村とサラダ村は産業都市として発展させるつもりよ」

 クレソンちゃんがふふん。と自信満々の笑みを浮かべる。

「それなら工業都市も必要なんじゃない?」

 軍事都市を作るにしても、武器兵器を作るには資源が必要だ。

 その資源を生み出す都市が工業都市ってこと。

 食糧とかを生み出すのが産業都市だね。

「石材や鋼鉄を生み出す工業都市かー。そのためには、そういう場所を確保する必要があるね。岩山とか鉱山とか」

 クレソンちゃんが難しそうな顔をする。

「この辺にはそういうの見当たらないね」

 私が言うと、クレソンちゃんが沈んだ顔で頷いた。

「残念だけど、そういう資源がある場所は掌握軍が全て支配してるわ。それにそういう場所は重要な場所だから強いやつが守ってるわよ?」

「それでもそこを奪わないと軍事都市も形だけになっちゃうよ?」

 資源の確保が難しいとクレソンちゃんは言うけど、結局はそういう場所をいずれ解放しなければならない。

「そうね……クレソンは木材で武器とか兵器を作ることを考えていたけど、石材や鉄類も必要だよね……」

 少し考えたあと、クレソンちゃんはちょっと計画してみるね。と言った。

「とりあえず敵の拠点やこの辺の町や村を解放したら、次に一番の近場の資源場を目指すのはどう?」

 クレソンちゃんにしては珍しく弱気なのを見て、私はとりあえずの提案をしてみた。

 その案はとりあえず受け入れられたけど、どうもクレソンちゃんは不安が拭えないようね……

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