『クラス最底辺の俺、触れたヒロインの死亡フラグが見えるんだが助けたら世界が壊れそう』 ――助けたいだけなのに、選択肢が残酷すぎる~第27花 遠回りの質問~

フラ壊

 昼休みの教室は、騒がしい。

 机を寄せて笑う声。
 スマホの画面を覗き込む声。
 廊下から聞こえる足音。

 そんな中で、スズランは一人、静かに決めていた。

(……やっぱり、気のせいじゃない)

 あの二人。
 アスターとダリアの間には、何かがある。

 それが恋なのか、共犯なのか、依存なのか。
 スズランにはまだ分からない。

 でも――
 “あのノート”が関係していることだけは、妙に確信できた。

 視線の端で、アスターは今日もノートを開いている。
 周囲の喧騒を完全に遮断したみたいに、黙々とページをめくっていた。

 ダリアはその斜め前。
 何も言わず、何もしていないのに、どこか“見張っている”ようにも見える。

 ……気味が悪い。

 スズランは、小さく息を吐いた。

「……よし」

 そう呟いて、立ち上がる。

 向かったのは、ダリアの机だった。

「ねえ、ダリア」

 ダリアはゆっくり顔を上げる。
 その目はいつも通り静かで、感情の底が見えない。

「なに?」

 スズランは、できるだけ軽い声を作った。

「最近さ、アスターとよく一緒にいるよね」

 ダリアは、ほんの一瞬だけ瞬きをした。

「……そう?」

「うん。なんていうか、よく隣にいるなって」

 言葉はあくまで雑談。
 でも内心では、神経を研ぎ澄ませていた。

 ダリアの反応を、一つも逃さないように。

「偶然じゃない?」

 あまりにも自然な答えだった。

 声のトーンも、表情も、いつも通り。
 だからこそ、スズランは余計に引っかかった。

「ふーん……」

 スズランは、机に指先をとん、と置いた。

「じゃあさ。あのノート、なに書いてるか知ってる?」

 教室の空気が、ほんのわずかに変わった。

 騒がしさはそのままなのに、
 スズランの周囲だけ、妙に静かに感じる。

 ダリアは、すぐには答えなかった。

 ただ、スズランを見ている。

 まるで、「どこまで気づいてるの?」と測るみたいに。

「……さあ」

 やがて、ダリアは口を開いた。

「日記とかじゃない?」

「へぇ」

 スズランは、わざとらしく笑う。

「でもさ、あんなにずっと書いてるって、普通の日記にしては長くない?」

 ダリアの視線が、ほんのわずかに細くなった。

 気のせいじゃない。
 これは、確実な反応だった。

「……気になるなら、本人に聞けば?」

 淡々とした声。

 けれど、その奥に、微かな棘が混じっている。

 スズランは、その棘を見逃さなかった。

(……やっぱり)

 確信が、胸の中で形を持ち始める。

 ダリアは、ノートのことを“知っている”。
 それも、ただ知っているだけじゃない。

 ――守っている。

 スズランは、少しだけ声を落とした。

「ねえ、ダリア」

「なに」

「……あれ、見ちゃいけないものだったりするの?」

 今度は、ダリアがすぐに答えなかった。

 数秒。
 ほんの数秒なのに、やけに長く感じる沈黙。

 そして、ダリアは小さく微笑った。

「……どうしてそう思うの?」

 その笑みは、今までで一番、読めなかった。

 優しいようで、冷たい。
 楽しんでいるようで、試している。

 スズランは、背筋にぞわりとしたものを感じながらも、視線を逸らさなかった。

「……なんとなく」

 嘘だ。
 なんとなく、じゃない。

 でも、ここで踏み込みすぎるのは危険だとも感じていた。

 ダリアはしばらくスズランを見つめたあと、視線を逸らして言った。

「……気にしない方がいいと思うよ」

 やけに静かな声だった。

 それは忠告にも、脅しにも聞こえる言い方だった。

 スズランは、何も言えなくなった。

 ただ一つ、はっきりしたことがある。

 このノートには、
 この関係には、
 自分が思っている以上に深い“何か”がある。

 そしてそれを、
 ダリアは“手放す気がない”。

 席に戻りながら、スズランはアスターの背中を見る。

 相変わらず、ノートに視線を落とし続けている。

 何も知らない顔で。
 それとも――すべてを知っている顔で。

(……やっぱり、直接聞くしかない)

 スズランの中で、次の決意が、静かに固まっていった。

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