君だけが俺をユイと呼ぶ~第14話 佐々木ゆかり~

君だけが俺をユイと呼ぶ

 世界は想像以上につまらなかった。
 そんな哲学的な言葉が、俺の頭に流れ込んだ。

 白石は俺と距離を取りたがっている。

 俺は白石と一緒に昼飯を食うのを辞めた。
 放課後の不思議探しも辞めた。
 共同発表なんてもはや何の意味もない。

 ただ。それだけ。
 俺が辞めると、クラスの男子は俺の机に群がらなくなった。

 静かな高校生活を送りたかった俺にはちょうどいい。

 ただ少しだけ。
 物足りなく感じるだけだ……

 ●

「また見てるの?」
 唐突に隣から声がした。

 振り向くと、女子がニヤニヤしながら見ている。
 名前は確か――佐々木ゆかり。

「かおるちゃんとの関係はもう終わったの?」
「終わったも何も」
 何もなかった。

 俺はやっぱり俺で、白石が求めるユイにはなれなかったのだから……

「で。まだ未練があるんだ?」
「未練? いや。たぶんそういうのじゃない……と思う……」
「ふーん? 朝倉って何にも分かってないんだね」
「何にもって何だよ」
「全部だよ。かおるちゃんのことも自分のことも」

 意味深なことを言う女だな。

「私はねー。一応自分ではかおるちゃんの友人だと思ってる。他のただあやかりたい女子とは違ってね」
 胸に手を当てて自信たっぷりに言う。
「そんな私は、ひそかにずっとキミたちのことを見ていたのだよ」
 ふっふっふ。と自慢げに言う。
 そしてチラリ。と俺を見る。
「かおるちゃんは何回か変化があったよ」

 何だと?
 白石に変化?
 あの電車事件の後は確かに変わったな。

「朝倉はさ。ちゃんとかおるちゃんのこと見てなかったでしょ?」
 この言葉が心に刺さった。

 確かに俺は、白石にとってのユイになろうとしていた。
 そう思っていた。
 でも本当は――
 嫌われたくなかっただけかもしれない。

 ●

 白石の変化か……

 突然俺のことをユイと呼び、自分のことはコンと呼べと言ってきた。
 その後、不思議探しの白石になり、俺のことはキミ。と呼んでいた。
 白石の時は朝倉くんと呼ぶ。

 変わったとすればそのくらいだ。
 そういえば俺の人生の邪魔をしたくないと言った時は、俺のことを朝倉くんと呼んでいたな……

 呼び方が変わったのは、俺との距離が変わったから?

 白石……お前は一体どこへ行こうとしているんだ?……

 ●

「なぁ佐々木」
 翌朝、昨日考えたことを話そうと佐々木に声をかけた。

「白石は俺のことを色んな名前で呼ぶんだ」
「なにそれ? 惚気?」
「いや。違くて。聞いてくれ」

 そこで俺は話を区切った。
 ユイとコンの関係は2人だけの秘密だと白石に言われた。
 ユイとコンのことを言わずに、どうやって言えばいいんだ?

「この前……」
 俺は言葉を探すように話した。
「俺の人生の邪魔になりたくないって言われたんだ……」

 佐々木は黙って俺の次の言葉を待つ。
「俺にはその言葉の意味が理解できない。今も理解できない」
「ただ……」
 また俺は次の言葉を探す。
「白石が俺から離れていきたいと感じている。俺のことを気遣ってくれているのだけは理解できる……」

「なるほどねぇー」
「私が言えることは、かおるちゃんが言っていないことを私から言うわけにはいかないってことかな」

 なぜか佐々木は笑っている。

「そこまで分かってるならあと一歩だね」
「待ってくれ! 佐々木の考えだけでも教えてくれないか」

 立ち上がる佐々木を俺は引き留めた。

「私だってかおるちゃんじゃないんだよ? かおるちゃんの考えが全て分かるわけじゃないし、私が思うにってことになっちゃうよ?」
「それでもいい」
「んー。かおるちゃんは朝倉と離れたくて離れているわけではないんじゃない?」
「理由は分からないけどさ。さっき朝倉も言ったじゃん? 朝倉のために離れているって。たぶんそれは正解だと思うよ?」

 やっぱりか。
 俺のためって何なんだ?

「一般的に言うなら――」
 チラリと佐々木が俺を見てから続きを言う。
「朝倉に他に好きな人ができたとか」

「は?」
「あくまでも一般的に言えばだよ? それに、かおるちゃんがそう感じてしまえばそれが事実になるからね?」

 すっと。佐々木が立ち上がる。
 もうこの話しはおしまい。
 そう言われた気がした。

「あ。それと」
 くるり。と俺の方を振り返りながら、佐々木が言う。
「よく失恋した後に、優しくされるとその人のこと好きになっちゃうことあるけど、私はダメだからね?」

 ……は?
 意味がわからん。

 俺が佐々木のことを好きになると?

「私、好きな人いるから」

 にこり。と微笑まれた。
 え? 俺って遠回しにフラれた?
 告白もしていなければ、佐々木のこと好きでもなんでもないのに?

 あ――

 こういうことか。
 相手がそう感じてしまえばそれが事実になる。

 佐々木は、俺が佐々木のことを好きになると感じて、告白される前に予防線を張ったんだ。

 それにしたって、他のやり方があったろうに……

 

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