君だけが俺をユイと呼ぶ~第34話 小学生の頃~

君だけが俺をユイと呼ぶ

「ねぇ! 今度転入生が来るんだって!」

 うだるような暑さの中、クラスの女子がはしゃいでる。

「えー! 男子かなぁー?」
「かっこいいといいよね」

「うちのクラスには可愛い女子がいねーから女子がいいよなー」
「すっげー美人がいいよな」
「しかも金持ちな!」

 女子の会話に負けじと男子もはしゃぐ。

「なー。はるとー。お前はどっちがいい?」
 しげだ。
 ことあるごとに、俺のところに来る。

「そうだよ! 朝倉! どっちがいいか決めてくれよ! 女子だよな?」
 別の男子が言う。
「朝倉くん! 男子の方がいいわよね?」
 女子も男子も俺に意見を求めてくる。

 俺は、クラスの人気者だった。

 みんなからチヤホヤされるのは、悪くなかった。

「しげは女子がいいってさ」
「はるとー! 俺のことはいいだろー!」

 そんな俺の後ろを、いっつもくっついて歩いていたのがしげだ。

 周りから見たら、しげは俺の子分みたいな感じに見えたのかもしれないが、俺にとってしげは特別な存在だった。

 唯一、俺の本心を話せて心を許せる相手がしげだった。
 しげは、俺が持っていない物をたくさん持っていた。

「女子なんてつまんねーよ。男子の方が一緒に遊べて楽しいだろ?」
 本心じゃない。
 こう言う俺をクラスのみんなが望んでいるだけだ。

「さすが朝倉くん!」
「確かに朝倉が言う通り、一緒に遊べる男子の方がいいな」

 これだ。
 このクラスも、前のクラスもずっとそうだ。
 みんな俺の言うことを聞く。

 とてもつまらない。

 ●

「女子だといーけどなー」

 帰り道にしげが俺に言う。

 しげだけは、俺の意見に左右されずに自分の意見を持っていた。

「しげはすげーな」
「何が?」
「そーゆーところ」

 他のクラスメイトは、俺がクラスの人気者だから近づいてくる。
 しげはそういう下心なしに、仲良くしてくれる。

「俺も女子がいーなー」
「ならそう言えば良かったのに」
「それが言えたら苦労しねーよー。みんな俺に期待してるもん」
「あんまり無理すんなよ?」
 これがしげだ。

 ●

「今日は転校生を紹介するぞー」
 担任が言うと、クラスがざわめいた。

 俺の心もざわついた。

「せんせー! 女子ですかー?」
 お調子者の男子が聞いている。
「静かに!」
 これは学級委員。

 あぁ――懐かしい。
 そして……

「初めまして。吉岡さくらです。分からないことだらけですが、よろしくお願いします」

 クラスが静まり返った。

 子供ながらに直感した。

 これからはこの子がクラスの中心になるんだって。

 ●

 俺の予感は的中した。

「朝倉くーん!」
「吉岡さーん!」

 まぁ実際には俺と吉岡がクラスの中心になったわけだけど。

 クラスからモテはやされ、2人は付き合っているだのお似合いだのと影で言われているのは知っていたが、当人にも聞こえるように言われているのはわざとだろうな。

 吉岡は、金持ちの令嬢で、クラス1いや学校1の美人だった。

 当然、みんながお近づきになりたがった。

「はるとはると!」
 そんなのとはお構いなしなのがしげだ。
「俺! 好きな人ができた」
「それはよかったな。しげはよく好きな人が変わるからなー」
「じゃあ好きな人が変わっても応援してくれよ?」
「あ? そりゃあしげのためなら応援してやるよ?」
「よっしゃー! 俺たちは親友だぜ!」

 ●

「小学校以来だね」

 にこりと笑ながら吉岡が言う。
 その言葉に我に返った。

 まだ頭がズキズキ痛む。

「やっぱり。私のことは覚えててくれたんだね」
「……当たり前だろ?」

 忘れるわけがない。
 忘れられるわけがない。

 吉岡が俺に告白をして、俺が断ってそれから……

 勝手に涙が零れ落ちた。

「嬉しい。涙を流す程なんだね」

 そう言って左手を持ち上げた。
 その白くて細い手首には、くっきりと古傷が残っていた。

 あぁ――
 そうか。

 しげは自ら命を……

 その原因が俺で、吉岡なんだ……

 膝から崩れ落ちた。

「ユイ!」

 白石が走って来る。

 けど、意識が……

 目の前が真っ暗になる。

「ちょっとはるくん!」

 ●

 ……白?
 シーツか。

 そうか。俺は廊下で倒れたのか。

「ユイ。大丈夫?」

 白石が顔を覗き込む。

「白石……」

 キョロキョロと辺りを見渡す。
 ここに吉岡の姿がなくてほっとする。

「吉岡さん……」
 ギクリと身がすくむ。
「同じ小学校だったんだってね……」

「あぁ……正直。思い出したくなかった……」
「え?」
「俺はしげを」
「はるくーん! 大丈夫?」
 やかましい声で吉岡が入ってきた。

「あ。白石さん。もうアナタはいいわ。後は私が面倒を見るからアナタは教室のお戻りになって?」
「え? でも……」
「アナタ分からないの? はるくんは私に会った時に涙を流して喜んだのよ?」
「いや。ちが」
「もぉー。アナタは野暮ねぇ。クラスではずっと一緒なんだからこういう時くらい私に看病させなさいな」

 白石に有無を言わさずに、吉岡は白石を追い立ててしまった。

 にこり。と吉岡が笑顔をこちらに向けてくる。

「小学生の頃の約束。覚えてる?」
「約束?」
「私は今でもあの約束は有効だと思ってるわ」
 そう言って自分の腕をまた見せる。
「あの時はお互い子供だったけど今は違うわ」
「今が大人だと分かってるなら、あの時の約束は子供の約束だって分かるだろ?」
「都合がいいのかもしれないけど」
 腕の傷跡をさする。
「あの約束だけはそうは思えないの」
 ここで吉岡は一息置いた。
「結婚してくれるって言ってくれたから」

 ●

 小学生の頃の同級生か……

 私はユイと離れ離れになってから前の私に戻った。

「ちょっと白石さん! 私が好きなあっくんにちょっかい出すのやめてくれる?」
「え? 私なにも」
「この前も白石さん、ゆーたくんに告白されてたよ!」
「はぁ? ゆーたくんウチが狙ってるの知ってるよね?」
「どーせ色仕掛けだよ」
「白石さんってホント空気読めないよねー」

 私の地元には通える小学校がなくて、少し遠い小学校に通うことになった。

 そこでは既にグループが出来上がっていて、私はずっと疎まれ続けてきた。

 自然と私は人を避けるようになった。

 私の小学生時代は何もなかった。

 私には、
 ユイと居た日々以外何もない……

タイトルとURLをコピーしました