君だけが俺をユイと呼ぶ~第47話 思い出~

君だけが俺をユイと呼ぶ

 タイムカプセルを埋めた後は、白石の誕生日が待っている。
 その前に試験とかいうものもあるわけだが……

「勉強会?」
「頼む! 俺を助けると思って」
 無理やり頼み込んで、俺はみんなに勉強を教えて貰うことにした。
「場所は私が提供しますわ」
 という吉岡のゴリ押しも仕方なく受け入れた。

「すっげー!」
 吉岡の豪邸を見た落合の第一声だ。
「この家に一般人が入れるのは稀なことよ? 感謝なさい?」
「へへぇー! 吉岡さまぁー」
 落合が深々と頭を下げると、それに倣うかのように佐々木も頭を下げた。
「神様仏様吉岡様ー」
「どう? 白石さん?」
 吉岡が勝ち誇った顔をする。
「まぁまぁじゃない?」
 白石は相変わらずツンとした態度だけど、どこか悔しそうだ。
「お。お邪魔します」
 大豪邸にビクビクしているのは塩田だ。

 俺はみんなの様子を見ながら、吉岡の家に訪れた日のことを思い出してた。

 ●

 吉岡の家に来るのは何度目かだった。

 多分、学校でこの豪邸にこう何度も来ているのは俺くらいだろう。

「あら、今日は河村くんもいるのね」
「いいか?」
「連れてきておいてダメなんて言えないじゃない」
「お。俺帰るよ?」
 しげがおどおどしているのを無視して、俺と吉岡が豪邸にしげを入れた。

「こう毎日毎日私の家に来ているけど、何か用事でもおありなの?」
 吉岡が不機嫌そうに言う。
「別にないよ。もうプリントも全部渡したしな」
「え?」
 しげが理解不能という声を出した。
「あのなしげ」
 俺は今までのことを簡単にしげに説明した。
 俺が先生に頼まれて吉岡に今までのプリントを渡したこと。
 そのお礼として、初めて吉岡の家に招かれた。
 まぁ。そのことが原因で今でもこうして吉岡の家に事あるごとに来てるんだけどな。
「全く図々しいとはこのことよ。たった一度の恩だけでずっとこの私に家でおもてなしさせるなんて」
 吉岡がぷりぷりして言う。
 けど。俺だけが知っている――
 まさか吉岡が家ではあんな仕打ちを受けているとは……

 ●

「おーい。朝倉ー。早く来いよー」
 まるで自分の家かのように、落合が俺を呼ぶ。
 よく考えれば、あれから吉岡は俺のことを好きになってしげは吉岡のことを好きになったんだろうな……
「朝倉が勉強教えてほしいって言ったんだぞ?」
 分かってるか? と落合が肩を組んでくる。
「分かった分かった」
 俺は落合の腕を外しながら、久しぶりに吉岡の家に入った。

 懐かしいな。
 みんなが迷う中、俺と吉岡が先頭に立ってスイスイ進む。
「全然変わってないのな」
「当たり前でしょ? 家の中がそうコロコロ変わってたまるものですか」
 長い廊下。突き当りの扉を開けるとキッチンという名の調理場があるんだよな。
 いつもあそこからはいい匂いがしてたっけ。
「今日も誰かが料理してるんだ?」
「うちには常に5人はコックがいますわ」
 吉岡がドヤ顔で白石を見る。
「こちらです」
「あれ? リビングじゃないのか?」
 この廊下の途中を左手に曲がるとリビングがある。
 いつも俺はそこに通されていた。
「今日は私のお部屋を紹介しますわ」
 吉岡の部屋か……
 胸に何かがつっかえたような感情を押し殺して、俺は吉岡の部屋に向かった。
 たった1度しか行ったことがない。
 幼い頃行ったその部屋は――

 ●

「いつまで遊び惚けているの!」
 その部屋からは怒号が飛んできた。
 小学生の頃の俺は、この広い屋敷の構造を覚えられず、トイレを借りた後に迷ってしまったのだ。
「ごめんなさい……」
 謝る吉岡の声は震えていた。
「いいこと? お兄様に恥じない生き方をしなさい!」
 ピシャリとドアを閉めたのは、吉岡の母親だ。
 そのまま鍵をかけると、俺のことなど気がつかずにスタスタと去ってしまった。
「よ……吉岡?」
 ドア越しに声をかける。
「なに? 惨めなもんでしょ? 私はこうやって無理やりに勉強をさせられているだけの操り人形なのよ。さっさと自分のいるべき場所に帰りなさい」
「明日は?」
「は?」
 ドア越しで姿は見えないはずなのに、吉岡の顔が自然と浮かぶ。
 きっと半分怒ったような表情をしているんだろうな。
「明日時間あるか?」
「聞いてなかったの? 私には勉強しかないのよ! アナタたち一般人とは違うの!」
「何をしている!」
 どれだけ大きな声で話していたのか。
 以前に、門前払いをしてきた背の高い男の人がやって来た。
「ここは部外者立ち入り禁止だ」
 前の時のような丁寧な言い方ではなく、激しくキツい言い方だ。
「明日も来るからな!」
「黙れ!」
 小学生の俺が大人に勝てるわけがない。
 それなのにこの男は、俺のことを殴って黙らせた。
 俺はそのまま吉岡の家から放り出された。
 そして、毎日のように吉岡に勉強をさせないように遊びに誘い、この家まで足を運んだんだ。

 ●

「だいぶ変わったな」
 これが俺の第一印象だった。
「そりゃ。もう高校生だからね? さすがに小学校の頃とは違うわよ?」
 それはそうなんだろうけど。
 外にあったはずの鍵もないし、あの背の高い男の人も見かけない。
「ここではる様は私を救い出してくれたのよね」
 にこりと笑いかけてくる。
 あぁ。確かに当時の吉岡からしたら俺は救世主だったんだろうな。
 最初の頃こそ、俺のことをウザがり避けていたのに、次第に俺やしげと一緒に居ることが多くなったんだ。

 そりゃ、俺のことを好きにもなるし依存もするよな。

 ちゃんとしてやれなかった俺に問題があるのかもしれないな。

 ●

 私は、私の知らないユイが居ることが許せない……

 仕方のないことだけど、許せない。

 吉岡さんと小学生の頃の話しをしているユイは、別に楽しそうでもないし嬉しそうでもない。
 それなのに胸の奥が痛むのは、私が嫉妬深いから?

 私とユイが一緒に過ごした期間は長い。
 けど、小学生の頃だけで見れば吉岡さんの方が長い……

 中学生の頃なんてここにいる誰も知らないんだよね……

「やっぱ小学校の頃から遊んだりしてると、懐かしく思うんだな」
 落合くんもそう思うんだ。

「私には素敵な思い出よ」
 この女は私に喧嘩売ってる?

「小学校の頃って言えば、白石と二人きりになったことあったよな?」
 ユイ。覚えてるの?
 あの台風の日のこと。

「へー。それ興味あるな」
 落合くんだ。
「確か、あんまり覚えてないけど、酷い台風でさ。学校が途中で終わりになったんだよ。んで、親が迎えに来るとかなったんだけど、俺と白石の親だけ迎えの時間に来なかったんだよな」
 もう。ユイは。
 肝心なこと思い出してないんだから。

 私はクスリ。と笑った。

「だよな?」
 と聞いてくるユイに微笑んだ。
「そんなこともあったねー。懐かしい」

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