「もう関わらないでくれよ」
小学生の頃に親友だと思っていた人に言われた言葉だ。
「ちょっと待てよ。何で!」
「落合って、何考えてるかわかんねぇんだよな」
「はぁ? どういう意味だよ」
「何て言うか、答えを分かってるのに教えてくれない感じ?」
「いや。それは上手く伝えられないだけで」
「いっつも俺たちのこと見下してるだろ?」
余計なことを言わないでいただけなのに、それが見下しているように見えるのか……
でも本当のことを言っても怒るんだろ?
人付き合いってめんどいな……
だからだろうな。
高校に入ってから最初に、人付き合いから避けていると思っていた朝倉が、クラスで一番目立つ存在に声をかけたりかけられたりしていて……
気になって。
声をかけて。
気がついたら、俺もめんどくさい人付き合いをしていた。
朝倉ってすごいな……
●
「転校?」
「あぁ。俺は俳優になりたいんだ。その夢を追いかけたいと思ってる」
「都内に行くなら離れ離れになっちゃうね……」
「何だかんだ佐々木とは小学生の頃からの付き合いだからな」
「幼稚園からだよ」
「そうだったか?」
「だいちゃんとは、高校も一緒だと思ってたのに残念」
「離れても連絡は取れるから」
そう言って、私の好きな人は私に連絡先を教えてくれた。
私は、高校も一緒だと思っていたから告白を先延ばしにしてたのに……
いや。違う……
私は先に進もうとしてなかっただけで、だいちゃんはどんどん先に進んでたんだ……
朝倉はすごいな……
ちゃんと気持ちを伝えてるんだから。
だからこそ。
かおるちゃんにもしっかりと気持ちを伝えてほしいって思う。
私と同じ思いをしてほしくないから……
●
「気持ちわるーい」
「近寄るなよ」
「塩田菌が移るぞー」
幼い頃から引っ込み思案だった私は、いっつもクラスのいじめられっ子だった。
なるべく目立たないように。
敵を作らないように。
自分の意見は押し殺して、周りに同調していた。
「塩田って何でそんなにうじうじしてるんだよ」
小学生の頃、幼なじみに言われた言葉だ。
私だって、好きでうじうじしてるわけじゃないのに。
「え? そんなにうじうじしてるように見える?」
「みんなキモいってさ」
ホント。心ない一言を平気で言う……
幼なじみですら、私のことを空気だと思っていて、クラスからハブられるのを防ぐために私を利用している。
「俺も同じ意見だから。もう一緒には帰らない」
あぁ……やっぱりね……
そんな私を救ってくれたのは、朝倉くんだった。
高校でも、目立たず友達も作らず空気のような存在だった私。
そんな私を見つけてくれたのが朝倉くん。
今のままでいいと言ってくれた。
私に友達と居場所をくれた。
私の王子様……
●
はるくんは、私が転校した時にはもうクラスの人気者だった。
親の事情で転校を繰り返す私に、友達なんかできるはずもなく。
更にはうちは普通よりもお金がある家だった。
私に近づく人は、お金目当ての人しかいなかった。
私も別に気にしなかった。
けど、クラスで目立つはるくんは、私にはとても輝いて見えた。
眩しい存在ではあったけど、ただそれだけ。
それが大切な存在になったのは、クラスのプリントを私の家に届けてくれたから。
何てことないことだけど、何の見返りもなくそういうことをする人がいることが、幼い頃の私には衝撃的だった。
それからは、気がつけばはるくんを目で追いかけるようになり、はるくんは私の全てになっていった……
「はる様……私ははる様のためなら何でもできるわ……自分を殺すことだって」
だから私ははる様と河村くんの目の前で腕を切った……
●
「はるくん!」
「吉岡?」
「私の気持ちに気づいているよね?」
「俺の気持ちも知ってるよな?」
「コンって人のこと? はるくんは、私を一般人にしたのよ? その責任を取ってちょうだい」
「俺も吉岡もずっと一般人だろ?」
「私はずっと特別な存在よ?」
「そうか。特別でも何でも俺はコンだけだから」
「そう……私は覚悟してるわよ?」
「カッター? 俺を脅す気か?」
「最後よ。私の気持ちに応えて」
「悪いけど無理だ」
「そう……さよなら……」
私は分かっていた。
はる様なら絶対に私を選ばないことを。
だからこそ、私ははる様のことを好きになったのに……
「吉岡! 吉岡ー!」
私ははる様の目の前で、自らの手首を切った。
数日間、私は生死を彷徨ったらしい。
私がいない世界は、無意味だと思った河村くんは、はる様の目の前で首を切ったらしい。
「吉岡……しげが……しげが……」
泣きながら私が寝ているベッドで、はる様が呟く。
私が目を覚ましたのに、気がついていない様子だった。
「はるくん……私と結婚して……」
「バカを言うな……けど……それで許されるならそうすべきかもな……」
その翌日、はる様は引っ越してしまった……
私との約束をそこに置いたまま……
●
「ユイー! 見てここー!」
「すっげー! こんな場所があったのかよー」
「ここさ。コンとユイだけの秘密の場所にしようよ!」
「いいな! 秘密基地だな!」
「かっこいいー!」
私とユイは長い間を、この秘密基地で過ごした。
雨の日も風の日も晴れの日も雪の日も……
ここには、私とユイの全てがあった――
